ざっくばらん(パニックびとのつぶやき)

詩・将棋・病気・芸能・スポーツ・社会・短編小説などいろいろ気まぐれに。2009年「僕とパニック障害の20年戦争出版」

白石一文「永遠のとなり」

2019-06-12 18:34:24 | Weblog
最近読んだ本で「永遠のとなり」「クローズド・ノート」と2冊続けて良かったのでとりあえず先に読んだ「永遠のとなり」の感想を。

主人公の青野精一郎は48歳。部下の自殺をきっかけにうつ病になってしまい、会社を辞め、離婚して故郷である博多に帰ります。そして故郷にはあっちゃんこと津田敦という小学校以来の親友がいて、彼も肺がんを発病するなど波乱万丈の人生を送ってきました。

精一郎はうつ病で、小説の中では飛行機を避けて電車で移動する場面もあり、少しパニック障害の症状も出ているようで、年齢も自分と同年代で重ね合わせて物語を読み進めていくことができました。親友のあっちゃんは子供の頃から頭がよく、一橋大学に進学し、銀行勤務を経て20代で東京・銀座に経営コンサルタントの事務所を開業し、順風満帆に映りました。しかし、40歳の時、肺がんを発病し、手術後に精一郎より一足早く博多に戻りました。大病を患ってから離婚と結婚を繰り返すようになりますが、一方で人の面倒見がよく、情の深い人で皆、彼を慕っています。

やっぱり、方言っていいですよね。精一郎とあっちゃんの会話も仲の良さがより伝わってきます。どちらかというと真面目で常識的な考え方をする精一郎に対し、あっちゃんはすごく個性的な人です。物語の後半であっちゃんが感情をむき出しにする場面がありました。

「せいちゃん(精一郎)、わしはいま芯の芯から腹ばたてとるとよ」。その後の言葉を要約すれば、世の中や神様に対して怒っている。今に始まったことじゃない。早くに両親が離婚し、物心ついた時には母親しかいなかった。勉強も怒りでしていた。大学も東大へ行きたかったが、浪人する金がなく一橋にした。銀行に入って親孝行できると思った時に母親は死んだ。そして40になった時、タバコも吸わないのに肺がんになった。今もそれと戦っている。

その後、あっちゃんは、自分が面倒を見ている人たちの惨めな話をし始め、そして最後に「どう思うね、せいちゃん。人間ってなんやろね。わしの人生ってなんやろね」と。あっちゃんの口調は激しい言葉に反して淡々としていました。精一郎は「そいでもさ、みんな一生懸命生きとるじゃん、みんな。それでよかないね」と言葉を返します。

人は何のために生きているのだろうか?僕にもわかりません。人間はなまじ頭がいいばかりにいろいろと考えてしまう。それなのに最も大切な部分がわからない。そうした苦悩を白石さんは見事に描いています。


「クローズド・ノート」の感想はまた機会があれば書きます。これもすごく良かったから、できれば感想を残しておきたいのですが。
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