都内のオフィスのワンフロア。藤田利英はコーヒーマシンのボタンを押し、ブラックのまま口をつけた。そして、小さくなった人や車を見おろす。ダークネイビーのスーツが長身に映える。
「佐藤君、そろそろかな?」
「もう見えられると思います」
パソコンの前で慌ただしく手を動かしながら佐藤は言った。彼はまだ若い男性だ。20代だろう。
インターホンが鳴った。画面には中年女性と少女が写っている。二人を藤田自らが迎えた。
挨拶が終わったところで佐藤が言った。「あの滝口さん、料金が先払いになるのですが、キャッシュでお支払いと伺っていますが」
「はい」
母親が封筒を手渡した。佐藤は「確認させていただきます」と言うなり、中身を取り出し、手際よく万札を数える。10枚や20枚でないことは確かだ。
やり取りが終わるのを待って、藤田が二人を応接室へ案内した。
「どうぞこちらに」
やや低音の落ち着きのある声で、藤田は母と娘をソファーに座るよう促した。藤田はテーブルを挟み、彼女らと対面する形で自らの椅子に座った。
「今日は娘さんの鑑定ですね」
「はい。よろしくお願いします」
母親は娘と共に軽く頭を下げた。
「滝口彩乃さんですね」
藤田は娘に顔を向けた。
「はい」と少女は短く応じた。身長は普通だが、やや細身だ。女優を目指すというだけあって顔立ちは整っている。
「お父様も来られるということでしたが」
「はい。その予定だったのですが」
母親は困惑気味だ。
「急用ですか?」
「父は私が女優になることに反対なんです」
彩乃は少し語気を強めた。
「なるほど。しかし、お父様の期待に応えられるかは分かりませんが」
藤田は少し口元を緩めた。
「ご存じのように0から100のポイントを提示します。といっても0と100は未だに誰もいませんが。50ポイントを基準にしてください」
「分かりました」
彩乃が頷く。
「現在、高校2年生の16才で間違いないですね」
「もうすぐ17才になります」
「私が知っている彩乃さんの情報はこれがほとんどすべてです」
彩乃は無言で頷いた。