「それもあって先生に女優になれる確率を知りたいと思い、家族で相談した上で先生に依頼することを決めました」
母親が穏やかな口調で付け加えた。
「分かりました。お約束通り数字を出します」
藤田は母親に笑いかけた。そして、一転して真顔になり彩乃に目を向けた。
「最後の質問です。どんな女優になりたいですか?」
彩乃は少し沈黙した。彼女の息遣いが聞こえるようだった。そして意を決した。
「主演女優です。そして見ている人の心を動かせる女優になりたいです」
藤田は彩乃から目を離した。そして事務的な調子で「30分から遅くとも1時間あれば判定できると思います。それまでお待ちください」と言い残し、応接室を出た。後から佐藤もついていく。
感情のない部屋で佐藤がパソコンにデータを入力していく。それを藤田は少し距離をおいて凝視する。そして時折、注文をつける。その繰り返しの中、藤田の着信音が鳴った。
「はい、アナライズクオリティーの藤田ですが、ああ、はい。そうですか。了解しました。それでは失礼します」
藤田は表情ひとつ変えずスマートフォンをしまった。
「3日前、銀行から生命保険の会社に転職しようとしていた男性からだ」
「はい。30代半ばの方ですよね。で何と?」
「うん。銀行に残ることにしたらしい」
「ああ、あの方のポイントは29でしたね」
「賢明な判断だと思うよ」
言いながら藤田は軽く頷いた。
「AIの数値が出ました。54です」
「そうか。何とかクリアしているな」
そういった後、しばらく考え込んでいる藤田の様子が気になり佐藤は尋ねた。
「そのままの数値でいきますか?」
「いや、それはない」
藤田はきっぱりと言った。