十一月六日(木)雨のち曇り。
我が家には、不相応な物が一つある。それは中型の耐火金庫である。何しろ五十キロ以上もあり、押し入れに入れる際、廊下の板が壊れたくらいだ。今の事務所に持って行こうとも思ったが、業者でなければ到底動かすことが出来ないので、そのままにしている。その金庫は、野村先生が浜松町に事務所を開設した時からあるものだが、以後、野村事務所が赤坂のみすじ通りに移転した折も、更に野村先生の死後に事務所を引きついだ私が赤坂の九丁目に事務所を移した時も持って行った。横浜の伊勢佐木町に引っ越した時もデーンと居座っていた。
その後、我が家に落ち着いた。現在の事務所は金庫の一つや二つ置くぐらいのスペースはあるのだが、金庫に入れるほどの現金も盗まれて困る物もない。何と言っても業者に頼まなければならないのが金もかかるし、めんどうだ。アホなことに、その金庫を開けるのに必要なダイヤルの番号を書いたメモをどこに仕舞ったのか忘れていて、もう十年以上も開けていない。
何か大切な物や金目の物でも入れてあるのなら、もうとっくに開けているし、常日頃から金庫の存在も気にしていない。愚妻と話してもお互いの記憶にあるのは、保険の証書や前に乗っていた車関係の書類ぐらいである。その開かずの金庫が昨日、十年ぶり位に開けることになった。書類棚を整理していたら、引き出しの中に、金庫のダイヤルの番号がテープで貼ってあった。自分で貼ったことも忘れるくらいなので、たいしたものが入っていないのは分かってはいたが、ちょっと期待感でわくわくした。
皆が出かけた後に、ふふふとほくそえんで御開帳と相成った、じゃじゃじゃーん。金庫の中には引き出しが五つ。一番上は空。二番目には、野村先生が、自決の際に私や当時、二十一世紀書院の社員に宛てた手紙。これは金庫にしまってあることは覚えていたが、何か今でも生々しいので、ほとんど目を通したことがない。三番目の引き出しには、案の定様々な保険の証書。残る二つの引き出しには、忘れていた宝物が入っており、ちょっと興奮した。それは野村先生の遺著となった『さらば群青』の第一章の描き下ろし部分と『美は一度限り』、そして映画『撃てばかげろう』の準備稿と題した生原稿である。久しぶりに野村先生の息吹に触れたような思いがして感動した。何時もならば、家族から怨嗟の的となっている私の何でも取っておく性格が、今回は幸いした。
夕方に、みなとみらいにある脳ドックに行きMRIを予約。本当は十月に来なさいと言われていたのだがタイミングが悪く、今日になってしまった。来週の午前中の予約を取った。帰りにスーパーに行けば、何と、鮮魚コーナーにカツオがあった。値段は少々高いが、あらよっと、勢いで買った。さっさと帰宅して、家族が揃ってから晩酌。いい一日だった。
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「撃てばかげろう」原稿
「美は一度限り」原稿
「さらば群青」原稿
我が家には、不相応な物が一つある。それは中型の耐火金庫である。何しろ五十キロ以上もあり、押し入れに入れる際、廊下の板が壊れたくらいだ。今の事務所に持って行こうとも思ったが、業者でなければ到底動かすことが出来ないので、そのままにしている。その金庫は、野村先生が浜松町に事務所を開設した時からあるものだが、以後、野村事務所が赤坂のみすじ通りに移転した折も、更に野村先生の死後に事務所を引きついだ私が赤坂の九丁目に事務所を移した時も持って行った。横浜の伊勢佐木町に引っ越した時もデーンと居座っていた。
その後、我が家に落ち着いた。現在の事務所は金庫の一つや二つ置くぐらいのスペースはあるのだが、金庫に入れるほどの現金も盗まれて困る物もない。何と言っても業者に頼まなければならないのが金もかかるし、めんどうだ。アホなことに、その金庫を開けるのに必要なダイヤルの番号を書いたメモをどこに仕舞ったのか忘れていて、もう十年以上も開けていない。
何か大切な物や金目の物でも入れてあるのなら、もうとっくに開けているし、常日頃から金庫の存在も気にしていない。愚妻と話してもお互いの記憶にあるのは、保険の証書や前に乗っていた車関係の書類ぐらいである。その開かずの金庫が昨日、十年ぶり位に開けることになった。書類棚を整理していたら、引き出しの中に、金庫のダイヤルの番号がテープで貼ってあった。自分で貼ったことも忘れるくらいなので、たいしたものが入っていないのは分かってはいたが、ちょっと期待感でわくわくした。
皆が出かけた後に、ふふふとほくそえんで御開帳と相成った、じゃじゃじゃーん。金庫の中には引き出しが五つ。一番上は空。二番目には、野村先生が、自決の際に私や当時、二十一世紀書院の社員に宛てた手紙。これは金庫にしまってあることは覚えていたが、何か今でも生々しいので、ほとんど目を通したことがない。三番目の引き出しには、案の定様々な保険の証書。残る二つの引き出しには、忘れていた宝物が入っており、ちょっと興奮した。それは野村先生の遺著となった『さらば群青』の第一章の描き下ろし部分と『美は一度限り』、そして映画『撃てばかげろう』の準備稿と題した生原稿である。久しぶりに野村先生の息吹に触れたような思いがして感動した。何時もならば、家族から怨嗟の的となっている私の何でも取っておく性格が、今回は幸いした。
夕方に、みなとみらいにある脳ドックに行きMRIを予約。本当は十月に来なさいと言われていたのだがタイミングが悪く、今日になってしまった。来週の午前中の予約を取った。帰りにスーパーに行けば、何と、鮮魚コーナーにカツオがあった。値段は少々高いが、あらよっと、勢いで買った。さっさと帰宅して、家族が揃ってから晩酌。いい一日だった。
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「撃てばかげろう」原稿
「美は一度限り」原稿
「さらば群青」原稿