白雲去来

蜷川正大の日々是口実

しぐるるや人の情けに涙ぐむ。

2015-11-06 18:47:36 | 日記
十一月四日(水)晴れ。

以前からお世話になっていた「鎌倉の御大」のご子息と言う人から「父は二月に急逝いたしました」という葉書きを頂いた。先月まで関誌を送り続けていた。知らぬこととはいえ、亡くなられた方の名前で郵便物が届くのだから、ご家族はさぞ不快だったに違いあるまい。その方のことを思い出して手を合わせ静かに詫びた。

以前、やはりお世話になっていた方の会社を訪問した時に、「蜷川君。君たち浪人は余り長生きすると大変だよ」と言われた。その理由は、「君たちを応援しているのは、私を含めて、君よりも年上の人が多いと思う。あと何年かすれば、その人たちは引退するか、亡くなってしまう。そうなると、後を継いだ若い社長は、きっと君たちを応援しないよ」。言われて、ドキッとした。正にその通りだからである。そう私に諭してくれた方も何年か前に引退した。そして先日の、訃報を知らせる葉書きである。

貧乏しながら苦労して小説を書き続けた樋口一葉は、二十四歳と言う若さで亡くなった。その金に縁遠かった一葉が皮肉なことに五千円札に描かれている。嵐山光三郎センセイは、『週刊朝日』のコラム「コンセント抜いたか」の中で、「五千円札を使うたびに『一葉二十四歳』という年齢が胸に迫る」と書いている。

野村先生は、生前良く私に「蜷川。お前は大きな花を夢見るよりも、小さな実を食べて生きろ」と仰っていた。さらに「真面目に運動していれば、必ず応援してくれる人が出てくる。そう言う人がいなかったなら、世を嘆くよりも、自身の不明を反省しなさい」と。この歳まで、生きてこられたのも、先生の言葉通りに「小さな実を」を食べて来たからで、応援して頂いている社友に感謝している。

雨など降ってはいないが、ふと山頭火の「しぐるるや人の情けに涙ぐむ」が浮かんだ。

鮮魚店にて、カツオのタタキが目に入ったので、思案ろっぽうのすえ、買った。玉ねぎをスライスし、高知の先生を思い出しながら生のニンニクをスライスしてポン酢で食べた。カツオには芋焼酎が良く合う。

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