昨年12月始めに、ベーリンガー支社の社内研修会で糖尿病の講演(雑談に近い)をした。3年前に、当時熱心に来ていたMRさんの依頼で講演をしたので2回目になる。
糖尿病は自分の診療の1~2割を占めているだけになる。依頼された最初の時から、糖尿病の専門医に頼めばいいのでは、と言って地域の専門医の名前をあげた。
いやいやぜひ先生に、と言ってきた。たぶん支社内の講演会(MRさん数名の参加)だと引き受ける専門医がいなかったのだろう。
基本的に特に親しいMRさんはいない。そもそもMRさんの名前もほとんど覚えていない。ベーリンガーの以前のMRさんは名前を憶えている数少ない方だった。
せっかくなので、前振りとして(落語でいえばまくら)新型コロナウイルス感染症の話をした。ウイルスの性質・症状・重症度・マスクの効果・治療薬などを約20分くらいで伝えた。あとは忽那先生の「Yahoo!ニュース」を見るように勧めた。
糖尿病は2年に1回改訂される日本糖尿病学会の「糖尿病治療ガイド2020-2021」がこれまでのと違っていることを伝えて、その内容を説明した。
これまで「糖尿病治療ガイド」は、欧米のように選択基準を提示せず、毎回治療薬の羅列に留めていて、具体的な治療薬の選択基準がなかった。
今回も「2型糖尿病の血糖降下薬の特徴」として羅列している。ただ分類はすっきりとして、わかりやすく変えていた。インスリン分泌非促進系(ビグアナイド薬、チアゾリジン薬、α-GI、SGLT2阻害薬)とインスリン分泌促進系に分けて、後者(分泌促進系)はさらに血糖依存性(DPP4阻害薬、GLP-1受容体作動薬)と血糖非依存性(スルホニル尿素薬、グリニド)に分類している。(インスリン製剤は別に分類)
選択基準は明記していないが、本文中に追加の記載がある。1)体重増加を抑えたい場合は、メトホルミン、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬から選択薬を考慮する。2)心・腎保護作用を期待する場合は、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬の使用を考慮する。欧米のガイドラインを意識した記載だった。
さらに、今回の改訂の最も大きな点は、「11.病態やライフステージに基づいた治療の実例」が追加されたことだった。「はじめに」で「糖尿病を専門としない先生方からのより具体的な治療薬の選択基準に関する提示の要望にある程度答えた」という記載がある。確かに大抵の非専門医は、使う順番を示してくれ、と言うだろう。
症例をみると、糖尿病を初めて指摘された患者への対応として、メトホルミン、SGLT2阻害薬、DPP4阻害薬などから処方とある。(選択順と選択基準の記載はない)
またこれまで糖尿病で通院している患者さんへの対応としてもSU薬の中止から上記の3剤に変更(処方されているメトホルミン増量も)するよう勧める記載もある。
欧米のような明確な選択基準は避けているが、このように使用するよう察してくれ、という記載になっているのだった。
以前の糖尿病薬基本3種は、メトホルミン・DPP4阻害薬・SU薬(ごく少量)だったが、SU薬はできれば使用しない薬になり、代わりにSGLT2阻害薬が入ってきた。循環器科では欧米並みに第一選択だったりする。
糖尿病薬全種類について、わかる範囲でだが、具体的な使用法や臨床医の本音も伝えた。1時間の予定が、コロナの話もしたので、1時間半を過ぎて時間オーバーになってしまった。質問の時間がとれなかったので、1週間後に質問をまとめて説明することになった(メモをもって病院にきた)。
「日本糖尿病・生活習慣病ヒューマンデータ学会」の「糖尿病標準診療マニュアル」も勧めたところ、その後MR全員がダウンロードして勉強したそうだ。
糖尿病の大規模臨床試験を辛口に批評されている能登洋先生(聖路加国際病院)の「改訂版 最新 糖尿病診療のエビデンス」も紹介したが、さっそく購入した女性MRさんもいた。熱心なものだ。
大規模臨床試験は、内容をみると案外あやしいのだった。能登先生によれば「大規模にやらないと差が出ない。差が出たところを後で結果として作成する。」ということだ。