スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

明治維新&思惟の中の観念

2021-02-27 18:58:18 | 歌・小説
 『漱石追想』の中で僕が最も興味深く思えたのは,漱石の幼少期,小学生時代の同級生による追想が含まれていた点です。ただ,僕がどのような関心を惹かれたのかということを説明するためには,踏まえておかなければならないことがありますので,まずそのことを説明しておきます。
                                        
 漱石が誕生したのは1867年です。明治維新は1868年ですので,これは末期には当たりますが,江戸時代のことです。漱石は産まれてすぐに里子に出されましたが,このときはすぐに引き取られました。そして1868年に塩原家の養子となっていますが,これは明治維新,正確にいうと元号が明治と改元される以前のことだったようです。
 江戸時代には俗に士農工商といわれる階級制度がありました。漱石の実家である夏目家は,漱石が誕生した頃には家運が衰退していたのですが,元は江戸の町方名主ということで,身分でいえば武士に該当します。養子となった塩原家は,内藤新宿,現在でいえば新宿御苑一帯の名主で,こちらも身分でいえば武士に該当します。
 漱石が入学した小学校は浅草にあった戸田小学校で,これは1874年。その後,1876年に塩原夫妻が離婚した関係で,市ヶ谷小学校に転校しました。もちろんこれは明治になってからのことですから,このときの同級生には,江戸時代の身分は関係ありません。つまり武士出身の子もいれば,農家や商人など,町民に出自を有する子もいて,その子たちが同じ教室で学んでいたわけです。
 このことから容易に類推されるように,この時代の子どもたちはおそらく,同級生のかつての身分が何であったのかということが,ある種のアイデンティティーになり得たのです。とりわけ漱石が学んでいた時代は,産まれたのが江戸時代だったのですからなおさらのことでしょう。おそらくそうしたアイデンティティー,つまり自身はかつての武士階級であったというアイデンティティーを,どうやら漱石ももっていたようです。

 思惟の様態cogitandi modiというのは所産的自然Natura Naturataです。つまり第二部定義三から,観念ideamは,その観念の対象ideatumが何であったとしても,所産的自然でなければならないことになると僕は考えます。このゆえに,僕は神の観念idea Deiを,思惟の属性Cogitationis attributumの能産的自然Natura Naturansと解することは,スピノザの哲学においては適切ではないと考えるのです。ただしすでにいったように,そのように解することが絶対的な誤りであるとは僕はいいません。少なくともそのように解する余地が,第二部定理七系の解釈からはあるようにも思えるからです。
 それでは神の観念についての次の解釈の可能性を説明します。
 スピノザは第一部定理二一を論証するときに,背理法を用います。すなわち,もしも神のある属性の絶対的本性からして,その中に有限なfinitumものが存在するという仮定をして,この仮定は不条理であるということを導き,よって神のある属性の絶対的本性から生じるものは,その属性によって永遠aeterunusかつ無限infinitumであるということを証明するのです。この論証Demonstratioはかなり複雑なのですが,現在の考察とは無関係なので割愛します。僕が注目するのは,ここでスピノザが示している例示です。スピノザはある属性の中に有限で定まった存在existentiaないしは持続duratioを有するものが存在すると仮定するときに,たとえば思惟の中に神の観念が生じると仮定する,という例を挙げているのです。この仮定からこの論証がどう進んでいくのかはもう明らかでしょう。思惟の中に存在する神の観念が有限であるということは不条理であるから,この神の観念は永遠かつ無限でなければならないという結論に至るのです。
 第一部定理二一というのは,直接無限様態が永遠かつ無限であるということを示しているのであり,したがってその論証というのは,そのことを導出することの訴訟過程であるといわなければなりません。これはそれ自体で明らかでしょう。そしてスピノザはその訴訟過程の中で,思惟の中の神の観念という具体例を示しているのです。ということは,いくらそれが例示にすぎないものであったとしても,ここでスピノザは思惟の属性の直接無限様態として神の観念を考えているのではないかという推理が成り立つことになります。
コメント
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