スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

抑圧と蔑視&結末

2021-05-29 18:54:41 | 歌・小説
 篠本二郎が漱石と出会ったのは,廃刀令の前後のことでした。このためにこの頃の小学校では,士族の子どもが平民の子どもを抑圧する度が甚だしかったと篠本はいっています。すでに示したように,漱石は士族の子どもだったわけですから,抑圧する側だったわけです。篠本は当時の自分のあだ名は悪太郎であったとし,漱石はそのあだ名にも勝っていたといっています。つまり実際に漱石が平民の子どもを抑圧するということがあったのでしょう。そしてもう一点,この時代は婦女を蔑んでいたということも篠本はいっています。篠本は学校で女子と机を並べて授業を受けるということさえ不快に感じていたといってます。これでみれば男子の女子に対する蔑視というのは,士族の子どもの平民の子どもに対する蔑視よりも,なお強かったのだろうと僕は思います。こちらの方は実例があげられていて,同じクラスにいた先生の妹に対するいじめのエピソードが書かれています。
                                                 
 ただしこのエピソード自体は,単なる男子の女子に対するいじめというのとはちょっとだけ違います。というのはこの先生の妹は学業,とくに算数は優秀で,不出来であった篠本や漱石のことを哄笑することもあったとされているからです。つまりこのいじめは,単に女子であったということだけが理由になっているわけではありません。つまりある種の復讐でもあったわけです。とはいえこの哄笑したのが女子ではなく男子であったとしたら,同じような復讐心が生じたかどうかは微妙なところもあると思います。むしろこのいじめの要因は,机を並べて授業を受けることさえ不快であった女子が,ふたりよりも学業において優秀であったことに対する悔しさから生じたと解するのが適切だと思います、ですから篠本や漱石のうちに,婦女に対する蔑視があったのは間違いないでしょう。
 こうした蔑視は漱石の小説の中にも表れていると僕は思います。ただそれは強かれ弱かれ現在も存在する蔑視であると僕は考えますので,その点に注目した記事は書きません。

 ある事柄から強い悲しみtristitiaを感じれば感じるほど,そのものの観念ideaを否定しようとする現実的本性actualis essentiaを人間は有しています。逆にある事柄から大きな喜びlaetitiaを与えられれば与えられるほど,そのものの観念を肯定しようとする現実的本性を人間は有しています。そしてこのとき,肯定affirmatioと否定negatioという意志作用volitioは,真偽と関連しているために,僕たちはあるものから大きな喜びを与えられれば与えられるほど,そのものは真verumであると思いやすくなりますし,逆にあるこのから強い悲しみを受ければ受けるほど,そのものは虚偽falsitasであると思いやすくなるのです。実際には僕たちが真であると思いたいものが真であるということは確実ではありませんし,虚偽であると思いたいものが虚偽であるということが確実であるわけでもありません。このために僕たちは自身の喜びおよび悲しみのあり方によっては,真なるものを偽falsitasであると思いこんでしまうということが生じ得るのですし,偽なるものを真であると思いこんでしまうということが生じ得るのです。
 ここで再び第三部定理一二第三部定理一三,および第三部定理一三系に注目してみてください。ある人間Aが現実的に存在するとして,この人間がXによって強い悲しみに刺激されるafficiと仮定します。そうするとAは,単にXの観念を否定するnegareという意志作用をもとうとするだけでなく,その観念が偽であると思いやすくなります。なおかつその観念を排除する別の観念をもとうとするのですが,その観念にも意志作用が含まれていて,その観念は悲しみを与えるものを排除する観念なのですから,Aはこの観念については肯定しようとし,よってそれは真であると思いやすくなるのです。意志作用と喜びおよび悲しみの間にはこのような相関関係もあるのであって,そのことが何を真と判断し,何を偽と判断するのかということにも影響を与えてくるのです。突拍子もないと思えるような事柄にすらそれを肯定するつまりそれが真であると思い込む人間が出てくるのは,こうしたダイナミズムの結果effectusであるといえます。
 そしてこのことは,社会の分断と大きく関係しているといえます。というのは,喜びと悲しみは各人によって異なるからです。
コメント
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