ようやく9月を迎えた。迎えた途端に雨が降った。午後は晴れたり降ったりとなったが、晴れ間となってもカラッとした暑さとなった。さすがの猛暑も季節の移ろいには降参したようだ。
9月は“ひやおろし”をはじめ酒のシーズンである。昨冬仕込んだ酒が夏の間熟成し「秋あがり」して出てくる季節だ。9月を迎えて酒を想いながら、最初に頭に浮かんだのは先月西馬音内を訪ねた際お邪魔した浅舞酒造の森谷杜氏の言葉だ。
蔵を訪ねたことはすでに書いた(8月24日付)が、森谷杜氏は蔵に案内する前に蔵を取り巻く周囲の環境を案内してくれた。蔵は横手盆地の真ん中にあるが、その横手盆地を見下ろす山の中腹にまず案内し、盆地の美しい眺めを見下ろしながら語った。
「…皆さんが立つこの山をはじめ周囲の山々から横手盆地に水が流れ、あるいは伏流水となって各所に湧く。その水で米や果物や野菜が育ち、同じ水で酒を醸し、また同じ水で人々が生きていく…。人の営みはまさに自然と一体となって在るのです」
それを聞いていたわが一行の一人が、私の耳元で、「…自然と共にとか、自然重視とか軽々しく言っていたが、そのような意味だったんですか……、この杜氏さん、本当に自然とともに生きてるんですね」とつぶやいたのを思い出す。
もう一つの言葉は、純米酒蔵についての発言だ。
「…なにも目標を掲げ、なろうと思って純米酒蔵になったわけではない。蔵の周囲にある美味しい水や素晴らしい米を使って酒を造ろうとしていたらいつの間にか純米酒だけを造る蔵になっていた。しかもいつの間にか蔵の周囲5キロ以内の米だけで造っていた…」
日本酒を「米の醸造酒」とすれば、本来の日本酒は米と米麹と水だけで造る純米酒のはずだ。ところが純米酒は日本酒の15%に過ぎず、あとは醸造用アルコールや糖類や調味料などのマゼモノ酒だ。全国に約1300の蔵があるが、純米酒しか作らない蔵(いわゆる純米酒蔵)は20余蔵しかない。蔵の周囲の自然とともに生きているうちに純米酒蔵になっていた…、という森谷康市杜氏の言葉は重い。
蔵に沸く湧水は硬度2.6というから軟水。灘などの硬水にくらべて発酵力は弱く酒は造りにくいはずだ。しかし全国新酒鑑評会で金賞を取り続け(今年で11回目)、今年は純米大吟醸でも初めて金賞を取った。蔵の周囲5キロ内の米と水で作った酒で。
天の戸「Land of water」
「うちの水が一番生きてる酒」という森谷杜氏の
言葉にひかれ、訪問時に購入。
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