20年ほど前になりますか、メルセデス初のFFコンパクトカーとして登場したAクラス(A168)
それまで「ベンツ」とか「ガイシャ」とかいう物にほとんど縁も関心もなかった私が初めて本気で欲しいと思ったモデルでした。

「ミニサイズのメルセデス」であるという以上にその中身に驚かされたからです。
「ヴィッツより短い車長でCクラス並みの広さの室内」「運転席以外のシートがすべて脱着可能」「シートを外した後の床がほぼまっ平ら」「サンルーフとキャンバストップの長所を組み合わせたラメラールーフ」
当時は「これは私が使い倒すために生まれてきたクルマだ」とすら思ったものです(笑)
そして「ESP標準装備」。
皮肉な事に前年の転倒事故(専門誌テストの急旋回時にひっくり返ってしまったスキャンダル)の対策で急遽追加された装備だったのですがこれがある事で凍結路の安全性が確保できると判断し購入を決断しました。
発表会当日にヤナセに出向き殆ど即座に予約。こんな事は後にも先にもなかった行動で我乍ら呆れます。
そのAクラスですが納車当初から期待に違わぬ働きを見せてくれました。
最初の帰省では助手席とその後ろのシートを取り外した床の上に布団を敷いて車中泊。
床が完全にフラットだったので家で使う布団やマットレスがそのまま使えこれまでで最も快適な車中泊が堪能できました。ラゲッジネットをうまく使えば枕元(というか頭上)に小物入れまでセットできる配慮の良さ(笑)
脱着可能シートの威力を最も感じたのが引っ越しの時です。
下手なスキー板より長い家財道具はもとよりこのサイズのクルマで冷蔵庫や洗濯機まで苦も無く飲み込んだのは驚きでした。しかもワゴンの様に畳んだシートの上に荷物を載せないので重心が低いままで積載時の走行安定性もピカイチ(コンパクトカーとしては異例ですがヘッドライトのレべリング機構までありました)
おかげでトラックを一度も頼まずにAクラスだけで引っ越しを完了できました。
これに乗っていた6年間は毎日が好奇心の刺激の連続で未だに忘れられません。

ミニカーはマジョレットのモデル。
窓が半開状態、リアシートは片側が折りたたまれた状態を表現。ダッシュボードの造形も正確と、実車に負けずに気合の入ったモデルです。

肝心の車としてのAクラスですが、購入前にチェックした専門誌のプレビューの評価は全く分かれていました。
某有名評論家が「Aクラスにぞっこん惚れている」とまで言っていた一方辛口で知られる某誌では「まっすぐ走らず危険」と書かれており、さて実際はどっちなのかと途方に暮れたものです。
モノがヴィッツの低グレード二台分位のお値段だけに予約こそしたものの納車までの半年(いの一番で予約したのにそれ位待たされました)気が気でなかった事を覚えています。
では実際はどうだったのか。
結論から言うと「どちらも正しかった」という事になります。
最初の帰省で高速を使いましたが高速の安定性は巌の如きもので2リッタークラスのミニバンよりもはるかに安心して運転できました。
一度土砂降りの雨の中、中央道を走りましたがとても1・6リッターの軽自動車並みの全長の車とは思えないほどどっしりした走りで「これがメルセデスのクオリティか」と驚かされた事もあります。
燃費はハイオクながら高速をかなり飛ばしてもリッター16キロ前後でこれまた2リッターミニバンよりも良い数字です。
(コンパクトカーとの比較でないのを不思議がる方もおられるかと思いますが車自体がかなりミニバンに近い構造である事、パワーウェイトレシオがミニバン並みに高い事から比較した物です)

但し、それらは「普通の環境の場合」の話でした。
このAクラス、とにかく横風に弱かった。
高速のトンネル出口で横風に煽られるといきなりハンドルを取られます。そうでないときでも強風下ではステアリングを保つのが精いっぱいで「これが同じ車か」と思えるほどでした。
この点では横の投影面積がはるかに大きい筈のセレナ、エスティマよりも劣る印象でした。
おかげで高速走行時は必ず吹き流しをチェックする癖が身に付きました(笑)
Aクラスはコンパクトカーでありながら当時のRX-7よりも最低地上高が低いのでそれが関係していたのかもしれません。

街乗りでの加速、レスポンスは軽自動車(それもノンターボ)並みで燃費も10キロを割り込みます。
その一方でフロント、リアともオーバーハングが極端に短かったので取り回しは意外なほど楽でした。
又最低地上高こそ低いものの、アプローチアングル、ディパーチャ-アングル共に下手なクロカン四駆よりも大きかったので段差の乗り越えもかなり楽な部類です。
確かに専門誌で書かれていた事はおおむね事実でしたし、そこをどう評価するかで好き嫌いが分かれるクルマだったと言えます。
とはいえ欠点さえ分かればいろいろと楽しめる車だったのも確かです。

私は気に入っていた車でした。
ではなぜ手放したかというと「これが私の独身最後のクルマだったから」と言うのに尽きます。
結婚して子供や老人まで家族に持つ立場になると流石のAクラスでも手狭すぎ、ましてや車中泊込みの帰省などはまず不可能でした。
と言う訳で以後はミニバンに乗り換えて現在に至ります。
写真のミニカーはトミカの物です。
残念ながらマジョレットほどの気合は感じられずトミカの中では出来の悪い方に入ると思います(涙)

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