ちゃ~すが・タマ(冷や汗日記)

冷や汗かきかきの挨拶などを順次掲載

佐藤嘉尚『人を惚れさせる男 吉行淳之介伝』新潮社、2009年

2020年02月20日 22時42分08秒 | 
佐藤嘉尚(さとうよしなお)『人を惚れさせる男 吉行淳之介伝』をよんだ。いくつか、理由がある。章のタイトルに、8.15前後があったこともある。宮城まり子との関係も気になったし、宮城まり子の「ねむの木学園」のことも吉行はどのように思っていたのかも知りたかった。読んでいて、吉行が「娼婦」との関係、その姿を小説に描いたことなども面白かった。戦後の影の部分を歴史的にらないと、施設や学校での生活とその後についても評価が出来ないのではないかとも思う。

佐藤は、『面白半分』の編集を担当する編集者だった人。

序章 吉行家墓所
第一章 幼い結婚
第二章 孤児のような少年
第三章 急死
第四章 少数派
第五章 戦争
第六章 大空襲
第七章 八月一五日前後
第八章 『葦』と『世代』
第九章 雑誌編集記者
第十章 胸の空洞
第十一章 尿器と芥川賞
第十二章 闇の中の祝祭
第十三章 黒い涙
第十四章 面白半分
第十五章 ポピー
終章 変な静けさ
あとがき

宮城まり子との関係と「ねむの木学園」
○三つの約束(pp.255-256)
二人が一緒に住んで十年ぐらい経ったある日、宮城が改まった感じで吉行に言った。
ずーっと考えてきたんだけど、からだが不自由で知的障害があって、自宅で両親が面倒見られない子どもたちのお家を作りたいの。いいのかしら。
そのこと、キミは前から言ってたね。知り合ったときから、言ってた。昨日今日言い始めたのならやめなさいって言うけど、ずっーっと前から思い続けているみたいだから、反対はしない。その代わり、約束。
はい
途中でやめると言わないこと。愚痴はこぼさないこと。お金がナイと言わないこと。この三つの約束が守れるなら、やっていいんじゃないかな。特に、キミを信じてくる人に、途中でヤメタって言うのは、大変無礼なことだよ。
うん、わかった。守る。
…(中略)…
施設の名前を決めかねたときは、淳之介に相談した。
ねむの木ホーム。ねむの木の丘。きょうだい学園。ねむの木学園。いろいろかんがえたけど、迷っているのよ。どんなのがいいかしら。
考えるよ。
翌朝、宮城の部屋のドアの下の隙間に、原稿用紙が挟まっていた。それには大きな字で「ねむの木学園」、そして横につて小さな字で、「迷わずこれに決めなさい」と書かれていた。
※宮城まり子『淳之介さんのこと』に記されているエピソード