昨年秋にTV放映された「Anne with An E」(「アンという名の少女」)に触発されて、昨年11月頃から読み始めた「赤毛のアン」シリーズ。やっと全巻、読了しました。シリーズがバラバラなのは、各編を最安の古書で安くあげたかったのと、いろんな方の翻訳を読み比べてみたかったという理由もあります。
やはり一般によく知られている「赤毛のアン」のイメージは、想像力豊かで、前向きで、ちょっとおっちょこちょいな少女アン。農場の働き手として男の子が希望だった、アボンリー村のカスバート兄妹の家、グリーンゲイブルズに孤児院から手違いで連れられてきた女の子。兄のマシュー・カスバートはアンを気に入り養子に迎えようと考えるが、妹のマリラは乗り気ではない。しかし、やがてはマリラもアンを好きになる。
学校へ通い始めたアンは、すぐにダイアナという少女と意気投合し親友となる。想像力豊かなアンは、グリーンゲイブルズ周辺の美しい森や川や湖や道に夢見心地の名前を付けて回る。
一方でいろいろと事件を起こす。アン好きなら誰もが知っている有名な事件、アンに興味を持ったギルバート・ブライス(将来の伴侶)は何とかアンの気を引こうとアンの赤毛をからかうが、アンに学習用の石板で叩かれ石板は割れてしまう。
「やーい、にんじん」
「なにすんのよ!」
バッシーン!
その後数年、ある事件を機にギルバートの恋心に気づくまで、アンはギルバートとは口も利かないようになる。
事件は他にも。瘦せて赤毛のアンの容姿をついついイジってしまった近所のリンド夫人と喧嘩してマリラを困らせたり、ダイアナにジュースと間違えてお酒を飲ませたり、ケーキ作りを失敗したり...。
でも一方で、両親が留守のダイアナの妹が病気で苦しんでいるときには孤児院で経験したやり方で命を救ったり、火事を出した家に水をかぶって飛び込み逃げ遅れた子を助けたりと、持ち前の行動力で大活躍もする。
ある時、赤毛を気にしていたアンは、怪しい行商人から毛染めを買ってしまう。染めた毛は、アンの思い通りになるどころか緑っぽい変な色に。
驚いたマリラはアンの長い髪を短く切ってしまい、アンは学校で惨めな思いをすることに。でも、ギルバートはそんなアンをからかったりせず優しく見守る。ギルバートとクリスマスを祝うアン。
川で乗ったボートが流されて橋のたもとにしがみついていたアンをギルバートが助けてくれる。石板事件以来、まだギルバートを許せないアンだったが、なんとなく気持ちに変化が…。
アン11歳から15歳、この辺りまでがアンシリーズの始まり「Anne of Green Gables」(村岡花子訳邦題「赤毛のアン」)。
続編は、アン16歳から18歳、「Anne of Avonlea」(村岡花子訳邦題「アンの青春」)
村の学校(生徒が少なく小中一緒の、日本で言えば山奥の分校みたいな学校)を卒業したアンは、クィーン学院(村の学校の先生を養成する師範学校みたいな)に進学。ギルバートと1,2番を争う優秀な成績で卒業し、大学進学の奨学金の権利も得るが、マシューが病気で亡くなり進学はあきらめざるを得なくなる。遠くの村の学校の教員になってマリラを助けようとするアン。同様に父を無くして経済的に大学進学が難しかったギルバートは、アボンリー村の学校の先生になって大学進学の学費を蓄えるつもりだった。アンの事情を知ったギルバートは、マリラの元を離れて遠くに行きにくいアンを思いやってアボンリーの先生職をアンに譲り、自分は遠くの村の学校の先生に変更を願い出る。ギルバートの優しさに心打たれたアンは、ギルバートへの好意が愛情へと変わり始めたことに気づく。
ここまでが、児童書としてもよく読まれ、映画化されたりアニメ化されたりで日本はじめ世界中で親しまれている、ちょっとおっちょこちょいで夢見るかわいい女の子「赤毛のアン」の物語である。
2年後、2人は大学へ進学。大学でもお互いのすれ違いなど紆余曲折はあるが、やがてお互いの愛を確かめ合って卒業。アンは高校の校長先生となり、ギルバートは医学生としてさらに2年の勉学に励む。やがて2人は結婚し、「夢の家」で第一子は不幸にして失ってしまうが長男ジェムを得る。
その後は、6人の子供たちの母親となってブライス家を切り盛りする成長した”大人の”アンの物語、関わる人たちや出来事も大人の事情、とりわけ男女の出会いや関係の機微を伴ったオトナの世界へと、明らかに大きく変化することになるのである。
さらに、時代は進み第一次世界大戦、詩の才能豊かな次男ウォルターの戦死、末娘リラの結婚、孫の誕生、次の世界大戦を予感させる不穏な時代へと続いて行くのである。
全編読み通してみて、物語の世界観はクィーン学院前後で明らかに変化している。作者モンゴメリーがアンの一生をとおして本当に表現したかったことは、「Anne of Island」(村岡花子訳邦題「アンの愛情」)以降を読まないと理解できないと強く思った。