tetujin's blog

映画の「ネタバレの場合があります。健康のため、読み過ぎにご注意ください。」

Gの夏祭り(1)

2007-08-03 23:56:50 | 日記

事情とは、実を言えばオレはある種のジレンマに直面して悩んでいた。オレは、これまでにどんなにコストがかかろうとも、必ずターゲットの眉間を正確に一発で撃ち抜くというサービスを提供することで、高品質・高価格の市場セグメントにおいて高いブランド・イメージを維持してきた。ところが最近になって、はるかにシンプルで、かつ手軽に同様のサービスを提供できる技術として、誰にでも簡単に使えるような超小型のプラスチック爆弾が開発されたのだ。このためオレの市場価値が、危ういものとなってきたのである。顧客がどんどん減ってきちまうのだ。
「イノベーションのジレンマ」の著者であるハーバード大学のクリステンセン教授によれば、このような技術革新による低価格・低品質を特徴とするライバルが市場に参入してきた場合、既存のプレイヤーは、より高価格・高品質のセグメントへ逃げるしかないとしている。つまり、より難しい仕事を、より高額でだ。
オレがビルから飛び降りながら途中階にいる標的の眉間を撃ち抜いたり、建物の屋根に銃弾を反射させて標的の眉間を撃ち抜くなど、ますます困難な狙撃ばかり受注しているのは、このような安価な新しい技術に取って代わられることに焦りを感じているからである。だれもが殺し屋になれるそんな時代が到来しそうなのだ。ならば、いっそのこと、引退を・・・・・・。
そんな折に、スーパーの店のドアに張られた夏祭りのポスターを見た時に、オレは日頃の気晴らしに出かけてみようかなとふと思ったのだった。

境内は献燈の灯りが浮かび上がり、露店も境内一杯に店を出し、民謡踊りも奉納され、山の手に夏を呼ぶ祭りとして多くの参拝客でにぎわっていた。人目を避けるつもりで、黒いスーツでサングラスをつけていたが、どうやら失敗のようだ。まわりは、夏の夜の涼をたずねて、浴衣掛けの親子連れや女子高生たちでいっぱいだ。妙に自分だけが浮き上がってしまっているのが自分でも分かる。
<フッ>オレは自分を納得させた。<確かに浴衣を着れば目立たないかもしれないが、万一の時に動きが制限されるし、なにより、胸のホルスターを隠すことができないし、全身に無数の傷跡があるし・・・・・・。
夕闇の中で夜店の裸電球の優しい灯が通りを照らす。参拝客の流れに身を任せながらぶらぶら歩き、夜店では焼きそばを食べラムネを飲んだ。もちろん、背後に人に立たれないように自分のポジションをまるでゴキブリのようにしょっちゅう移動させていた事は言うまでもない。
そんなオレの背後に、その少女はひっそりと立った。
(明日へ続く)