そんなオレの背後に、その少女はひっそり立った。オレは思わず、その女の子をぶちのめしかけた。いや、正確に言うのなら、オレの背後で肩からかけたポシェットを空ける音を拳銃の撃鉄を起こす音と間違えて、いつもの癖で振り向きざま胸のホルスターに収めたコルトガバメントに手を伸ばしかけて固まってしまった。・・・・・・動かない。右手が動かないのだ。その瞬間に、持病で右手が動かないことを思い出し、左手でズボンのポケットのナイフを握り締めた。
少女は笑っていた。手に大きな綿あめを持った浴衣を着た女の子。小学校、1~2年生だろうか。オレの顔を見て微笑んでいる。
「・・・・・・」
オレはその子と目を合わせないように、体の向きを変えた。こんな平和ボケの日本の山の中で、それでも、背後で少女の立てたささいな金属音に自然に反応する自分が誇らしかった。さすがは超一流と言われるだけの事はある。
そんなオレの左手をその子はつついてきた。オレはまた、反射的に動かない右手で少女をぶちのめしそうになりながら、右手が動かない事を思い出していた。手が不自由だと本当に不便だ。立ちションすら自由にできない。
「おじさん。あれとって」
「・・・・・・」
少女はおれの左腕をとると、夜店の方を指差した。自由の利く左腕を取られると非常に不安になってしまう。
彼女は少し頭が足りないのかもしれない。知らないよそのおじさんに声かけて、さらわれでもしたらどうするのだろう。オレはあたりを見回して、保護者が近くにいないかどうか探した。人通りは相変わらず続き、夜店の列の前を行き来している。しかし、その子の親らしき姿はなかった。迷子なのかもしれない。
(明日へ続く)