また、手術室へ来た時と逆の道のりで長い病院の廊下を渡り、ベッドに横になったまま病室へ帰還。麻酔の関係で、頭を持ち上げるとひどい頭痛が起こりなかなか痛みがとれないらしい。しばらくは頭を動かさないようにと厳重に注意を受けていたため、道行く人々に凱旋のための挨拶はなし。それでも、手術が無事に成功したことをすれ違った患者達から祝福してもらえる。
病室の元の位置へ無事に到着。日もとっくに暮れていたので、医師から手術の経過の説明を受けた家人に帰ってもらって、また一人でベッドで痛みと対話。
麻酔から完全に覚めて、傷口がジンジンと鈍い痛みを発している。
手術室から出てきたぼくに笑顔で手をふって出迎えてくれた元気なナースは、痛みが増してきたら座薬を用意してくれるという。
「痛くなったら言ってくださいね」
というのだが、すでに痛い。ということは、時間がたつにつれ痛みがさらに増してくるということなのだろうか。
21時の消灯時間が過ぎて2時間も経った頃だろうか。鎮痛剤を要求しなければ朝までクスリをもらえないことに気がついて、入院してから2回目のナースコール。
「クスリを・・・・ヤクをください」というぼくに、彼女はすぐにやってきた。
前もって、座薬は(特にナースに座薬を入れてもらうのは)いやだと申告しておいたおかげで、前日まで飲んでいた経口薬の鎮痛剤を手渡される。
クスリを口に含むと、彼女はベッドサイドに置いておいたミネラルウォーターのボトルで水をぼくに飲ませてくれようとする。
頭を絶対に上げるなと言われていたぼくは、寝たままの姿勢でペットボトルから水を飲もうとするが、寝たままだとどうやっても水がこぼれてしまいそうだ。
ひょっとして、ひょっとして、口移しに水を飲ませてくれるかもと、あらぬ期待をしてみたのだが、そんなことはしてもらえるはずもなく、彼女に起こした頭を支えてもらって無事にクスリを飲下。
痛みにともなって熱が出ている。38℃。痛みと熱で眠れない夜を過ごす。彼女が時おり、ぼくの様子を見に来てくれる。
半開きになっていたカーテンの陰から顔を覗かせる彼女にぼくはVサインを送るとにっこりと笑ってくれた。
彼女は寝ているほかの患者の邪魔にならないように小声で、熱とか、痛みとかしびれがないか心配して聞いてくれている。
「もう、ぼくは大丈夫。だから寝てください」
彼女に伝えると、彼女は交代勤務だから大丈夫と笑顔で答えてくれた。
髪の毛を頭の後ろでキリっと団子にまとめた彼女。口元は大きめのマスクで覆われていて顔のつくりは良くわからなかったが、彼女の愛くるしいまなざしにぼくはすっかり彼女のファンになってしまっていた。