ぼくが入院していた整形外科病棟には、骨折も含めて40数人の入院患者がいたのだが、毎週末ともなれば何人かの患者が松葉杖をついて、あるいは車イスに乗ったまま退院していった。彼らは社会復帰には程遠い状態で出て行った。残された長期の入院患者たちは、退院していく患者達を複雑な気持ちで見送ることになる。
そして週明けになれば、次から次へと新しい入院患者たちがやってきた。
雪で転んだり交通事故で怪我をした人たち、脊柱管狭窄症で手術を受ける人たち、手術を前提とした検査入院の人たち。ぼくは入院中に何人もの人たちと親しくなって、そして何人もの人たちを見送ることになった。みんな笑顔で退院していくが、彼らは一様にこれからの生活に不安を隠しきれないでいた。
入院患者は、下は3歳から上は90歳を越える高齢者までいるのだが、平均すれば60歳代ということになろう。日本の高齢化社会の一面がこの病棟の平均年齢に現れている。そして男女の比率は4:6で女性が多い。入院患者に年配の女性が多いことから、病棟内の雰囲気は推して知るべし。女性の病室は4人部屋であれ、6人部屋であれ、ベッドのまわりのカーテンは日中は開けっぴろげで、彼女たちはベッドに横になっている。
だから、病棟内の廊下を松葉杖をついてウロウロ歩き回っていると、女性たちが入居している病室の入り口から一斉に注目を浴びてしまうことになる。
一方、男性の病室はベッドまわりのカーテンが締め切られ、ひっそりと静まり返っていて話し声すら聞こえない。
病室には、見舞い客達がそれぞれの知り合いの患者の元へ押し寄せるのだが、他の入院患者に気遣うことは少ない。すべての見舞い客がとは言わないが、彼らは見舞いに来た患者を元気付けるためか大声で喋り散らし、病院の食事の時間も構わずに通路をふさいでナース達の仕事の邪魔をしたうえで自己満足して帰っていく。
病院には見舞い客用に談話室(兼食堂)を用意しているのだが、そこでたむろする見舞い客たちは、入院患者の食事の時間でもそこに居続けようとする。このため、患者同士で会話をしながらの食事をするささやかな楽しみを奪ってしまう。
見舞い客にすれば忙しい時間を割いてきたのだから、面会中に患者を一生懸命元気付けようとしてのことなのだろうが、無関係の人間からみれば邪魔くさいことこの上ない。