旧商法時代から、実務上、新株予約権の放棄による変更の登記が可能とされていた。会社法下においても、明文の規定はなく、通達にも言及はないが、従来どおりの取扱いであるようである。そして、次のような解釈が一部で採られているようである。
「新株予約権の内容として、『新株予約権者が新株予約権を放棄した場合には新株予約権は消滅する』旨を規定しているときは、新株予約権の放棄による変更の登記を申請することができる。しかし、このような規定がない場合に、新株予約権者が新株予約権を放棄したときは、当該新株予約権は株式会社に帰属し、これを消却する場合には、取締役の決定(取締役会設定会社にあっては、取締役会の決議)によった後、新株予約権の消却の登記をすることになる。」
しかし、新株予約権は、債権であり、債権一般の消滅原因に服する。そして、新株予約権者の一方的意思表示である「新株予約権の放棄」は、民法上の免除(民法第519条)に相当する行為である。したがって、債権者(新株予約権者)が債務者(株式会社)に対して債務(株式会社が新株予約権者の権利行使に応じて株式を交付する義務)を免除(放棄)する意思を表示したときは、その債権(新株予約権)は、消滅することになる。また、会社法第287条の規定により、「新株予約権者がその有する新株予約権を行使することができなくなったとき」に該当し、消滅する、と構成してもよいであろう。
上記に紹介した解釈は、新株予約権の放棄を、所有権の放棄の場合と混同し、新株予約権の無償譲渡に相当する行為と誤認しているようである。おそらく、新株予約権を株式と同一視(株式は、所有権的権利であると解されている。)しているのであろう。しかし、債権である新株予約権が、放棄(民法上の免除)によって、株式会社に帰属すると考えるのは、上記のとおり妥当ではない。株式会社に自己新株予約権として帰属せしめたいのであれば、放棄ではなく、無償譲渡と構成すべきである。
登記手続においては、「新株予約権の放棄」は、新株予約権の消滅の一形態であるから、「登記の事由」としては「新株予約権の消滅」が妥当であると考える。