司法書士内藤卓のLEAGALBLOG

会社法及び商業登記に関する話題を中心に,消費者問題,司法書士,京都に関する話題等々を取り上げています。

簡易再編又は略式再編における株主総会の承認②

2007-02-07 21:19:03 | 会社法(改正商法等)
 先の記事で、「取締役会設置会社において、簡易合併又は略式合併の要件を満たす場合には、株主総会決議による吸収合併契約の承認は、何ら法的効果を生じないこととなる」旨の私見を著したところであったが、現在のところ、登記実務においては、従来どおり通常の手続(株主総会の承認を受ける手続)でも差し支えないとの運用であるようで、その旨の回答を得た例があるとのご指摘をお受けした。「でき上がった条文の解釈」に囚われすぎていたわけで、皆様、お騒がせしました。吃驚して心臓が止まりそうだった方もおられるかもしれないが、平にご容赦を。
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企業結合会計基準・事業分離等会計基準に関する適用指針の解説

2007-02-07 11:03:23 | 会社法(改正商法等)
小堀一英著「企業結合会計基準・事業分離等会計基準に関する適用指針の解説」旬刊商事法務第1790号31頁以下

 平成18年12月22日に改正された同適用指針の解説である。組織再編時の会計処理について、会社計算規則の規定が「適当に定めることができる」という内容であっても、同適用指針に則った会計処理が要請されるので、留意する必要がある。
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簡易再編又は略式再編における株主総会の承認

2007-02-07 02:29:25 | 会社法(改正商法等)
※ 文中意見にわたる部分は私見であることをお断りしておく。

 旧商法においては、簡易合併の要件を満たす場合でも、株主総会の承認は「得ることを要せず」(旧商法第413条ノ3第1項)であることから、簡易合併の手続を選択するか否かは、当事会社の自由であると解されていた。

 しかし、会社法においては、簡易合併又は略式合併の要件を満たす場合には、「株主総会の決議によって、吸収合併契約等の承認を受けなければならない」(会社法第783条第1項、第795条第1項)という規定を「適用しない」(第784条第1項、同条第3項、第796条第1項、同条第3項)とされている。

 したがって、取締役会設置会社において、簡易合併又は略式合併の要件を満たす場合には、株主総会決議による吸収合併契約の承認は、何ら法的効果を生じないこととなる。取締役会設置会社においては、株主総会は、会社法及び定款で定めた事項に限り、決議をすることができる(会社法第295条第2項)からである。ただし、吸収合併契約の締結前に取締役会の決議(会社法第362条第4項)を経ているのが通常であり、株主総会の決議は、単に意味がないだけであり、吸収合併等の無効の問題を生じない。
 一方、取締役会設置会社でない株式会社においては、株主総会は、株式会社の組織、運営、管理その他株式会社に関する一切の事項について決議をすることができる(会社法第295条第1項)ので、株主総会決議による吸収合併契約の承認も法的効果を持つと言える。

 なお、江頭教授は、簡易合併について、「存続会社が簡易合併の手続を選択するか否かは自由であり、強制されるものではない。」との見解を維持しておられる(「株式会社法」(有斐閣)782頁)。個人的には、江頭説が妥当であると考えるが、条文解釈上は、上記のとおりであろう。
 ちなみに、「会社法であそぼ」では、「略式・簡易再編の要件に合致しているのならば,その承認には法的効果はない」(平成18年12月19日付Q5&A5)である。
http://kaishahou.cocolog-nifty.com/blog/2006/12/post_540d.html

 登記の申請書には、承認機関による吸収合併契約の承認を証する書面を添付しなければならない(商業登記法第46条第2項、第80条第6号)ので、取締役会設置会社において、簡易合併又は略式合併の要件を満たす場合に、株主総会議事録を添付することは、「申請書に必要な書面を添付しないとき」(商業登記法第24条第8号)に該当し、申請却下の対象となり得る。もっとも、申請書の他の添付書面から簡易合併又は略式合併の要件を満たすことが明らかでない限り、形式審査ゆえに、申請が却下されることはない。ただし、親会社が100%子会社を吸収合併するケースでは、略式合併の要件を満たす場合がほとんどであり、吸収合併契約書にその旨の記載があれば、一見明らかであるから、却下の対象となり得るので、上記の取締役会議事録との差替え及び株主名簿の追完を要請されるものと解される。

 なお、旧商法では、簡易合併の手続を行う場合には、その旨が吸収合併契約書の記載事項(旧商法第413条ノ3第3項)であり、その旨を公告し又は株主に通知することを要した(旧商法第413条ノ3第4項)。しかし、会社法では、簡易合併又は略式合併の要件を満たす場合に、吸収合併契約の記載事項ではなく、取締役会で吸収合併契約の締結に関する決議を行う際に簡易合併又は略式合併で行う旨の決議を要しない。また、簡易合併又は略式合併で行う旨を公告し又は株主に通知することを要しないし、債権者保護手続としての公告及び催告においても、簡易合併又は略式合併で行う旨を記載することを要しない。ただし、株式買取請求に係る通知又は公告(会社法第785条第3項、同条第4項、第797条第3項、同条第4項により、株主は、簡易合併又は略式合併が行われることを知り得る(公告の場合には、株主がまったく知らないうちに、手続が進行する可能性は高い。)。

 端的に言えば、会社法では、通常の合併の手続と簡易合併又は略式合併の手続の相違点は、株主総会決議の要否のみである。ただし、登記の申請書の添付書面は異なる。
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