山口シヅエ氏の事件では,「週刊誌で山口氏が死亡していたことが報じられた直後の同10月,既に死亡していたとして登記を訂正」とあるが,この場合の是正方法は,
(1)重任の登記の抹消
(2)取締役等の登記の「抹消による回復」
(3)死亡による退任の登記
である。抹消を証する書面は,「死亡を証する書面」(死亡届,戸籍謄本等)ということになる。
株式会社の取締役は,株式会社に対して,忠実義務(会社法第355条)を負っており,登記された事項につき無効の原因があることを発見したときは,直ちに,これを是正すべき義務があるというべきである。
しかし,登記は公示されることによって,一般の第三者がこれを信頼することになるわけであるから,本来,過去の登記を覆す,安易な更正又は抹消の登記は認められないのが原則である。
登記の真正担保は,この「誤った登記は是正すべき」と「過去の登記を覆す,安易な更正又は抹消の登記は認められない」のせめぎ合いの中で,図られているのである。
ところが,どうやら,本来的な手続を省略しようとして,過去の登記の更正や抹消を訴えるケースが数多あるようで,登記所は,警鐘を鳴らしているようである。
「有効な過去の登記というのは覆せないわけですし,別途,新たに意思決定が必要になることもある」
「過去,登記をした時点で相応の精度で審査されている以上,これを覆すためには相当の根拠に基づく証明が必要」
「変更の登記,更正の登記,抹消の登記については,いずれにしても,現在の登記を変えるという意味では,同価値」
「登記の原因となる事実を証明できない限り,登記はできない。更正,抹消の登記も同様である。実体に登記があわないのであれば,改めて登記の原因となる事実を証する書面を添付して登記申請が必要である(場合によっては,改めて登記申請に係る内部意思決定を行うこともあり得る。)」
「更正や抹消の原因となる事実を証明する材料がないのであれば・・・新たな決議など,必要な組織決定をして,変更の登記を申請するということも考え方の1つ」
cf. 櫻庭倫法務省民事局総務課補佐官(当時)「東京法務局における商業・法人登記の相談事例の紹介等(下)」「登記研究」平成24年7月号(テイハン)
というわけで,「登記の抹消の申請書に添付すべき書面について」(法務省民商第897号平成24年4月3日付法務省民事局商事課長通知)が発出されたということなのであろう。
cf. 平成24年4月18日付け「登記の抹消の申請書に添付すべき書面について」
「登記の抹消の申請書には,登記された事項につき無効の原因があることを証する書面を添付しなければならないとされているところ,無効原因証書の作成者が,当該申請書に記載された抹消すべき登記事項に係る登記の申請書に添付された書面の作成者と異なる場合には,裁判書の謄本その他の公務員が職務上作成した書面が添付されている場合を除き,当該登記の抹消の申請は受理することができない」(上掲・商事課長通知)
ところで,例えば吸収合併の無効は,訴えをもってのみ主張することができる(会社法第828条第1項第7号)。したがって,吸収合併の無効による抹消の登記は,判決に基づく裁判所書記官からの嘱託によらなければならない(商業登記法第134条第1項第2号ただし書)。
しかしながら,最近,吸収合併の無効による抹消の登記が,申請によってされた事例が散見されるという噂がある。
上記のように,「安易な抹消の登記の禁止」の観点からすれば,得心が行かない,というより,あり得ない話であるが・・・。
考えられるとすれば,無効事由が登記申請書の添付書類から一見明らかであるにもかかわらず,それを看過して登記を完了させてしまったことが事後的に明らかになり,職権抹消(商業登記法第135条第1項)をしたのであろうか。職権抹消の場合も,商業登記法第134条第1項第2号ただし書の制約は,当然及ぶと思うのであるが。
(1)重任の登記の抹消
(2)取締役等の登記の「抹消による回復」
(3)死亡による退任の登記
である。抹消を証する書面は,「死亡を証する書面」(死亡届,戸籍謄本等)ということになる。
株式会社の取締役は,株式会社に対して,忠実義務(会社法第355条)を負っており,登記された事項につき無効の原因があることを発見したときは,直ちに,これを是正すべき義務があるというべきである。
しかし,登記は公示されることによって,一般の第三者がこれを信頼することになるわけであるから,本来,過去の登記を覆す,安易な更正又は抹消の登記は認められないのが原則である。
登記の真正担保は,この「誤った登記は是正すべき」と「過去の登記を覆す,安易な更正又は抹消の登記は認められない」のせめぎ合いの中で,図られているのである。
ところが,どうやら,本来的な手続を省略しようとして,過去の登記の更正や抹消を訴えるケースが数多あるようで,登記所は,警鐘を鳴らしているようである。
「有効な過去の登記というのは覆せないわけですし,別途,新たに意思決定が必要になることもある」
「過去,登記をした時点で相応の精度で審査されている以上,これを覆すためには相当の根拠に基づく証明が必要」
「変更の登記,更正の登記,抹消の登記については,いずれにしても,現在の登記を変えるという意味では,同価値」
「登記の原因となる事実を証明できない限り,登記はできない。更正,抹消の登記も同様である。実体に登記があわないのであれば,改めて登記の原因となる事実を証する書面を添付して登記申請が必要である(場合によっては,改めて登記申請に係る内部意思決定を行うこともあり得る。)」
「更正や抹消の原因となる事実を証明する材料がないのであれば・・・新たな決議など,必要な組織決定をして,変更の登記を申請するということも考え方の1つ」
cf. 櫻庭倫法務省民事局総務課補佐官(当時)「東京法務局における商業・法人登記の相談事例の紹介等(下)」「登記研究」平成24年7月号(テイハン)
というわけで,「登記の抹消の申請書に添付すべき書面について」(法務省民商第897号平成24年4月3日付法務省民事局商事課長通知)が発出されたということなのであろう。
cf. 平成24年4月18日付け「登記の抹消の申請書に添付すべき書面について」
「登記の抹消の申請書には,登記された事項につき無効の原因があることを証する書面を添付しなければならないとされているところ,無効原因証書の作成者が,当該申請書に記載された抹消すべき登記事項に係る登記の申請書に添付された書面の作成者と異なる場合には,裁判書の謄本その他の公務員が職務上作成した書面が添付されている場合を除き,当該登記の抹消の申請は受理することができない」(上掲・商事課長通知)
ところで,例えば吸収合併の無効は,訴えをもってのみ主張することができる(会社法第828条第1項第7号)。したがって,吸収合併の無効による抹消の登記は,判決に基づく裁判所書記官からの嘱託によらなければならない(商業登記法第134条第1項第2号ただし書)。
しかしながら,最近,吸収合併の無効による抹消の登記が,申請によってされた事例が散見されるという噂がある。
上記のように,「安易な抹消の登記の禁止」の観点からすれば,得心が行かない,というより,あり得ない話であるが・・・。
考えられるとすれば,無効事由が登記申請書の添付書類から一見明らかであるにもかかわらず,それを看過して登記を完了させてしまったことが事後的に明らかになり,職権抹消(商業登記法第135条第1項)をしたのであろうか。職権抹消の場合も,商業登記法第134条第1項第2号ただし書の制約は,当然及ぶと思うのであるが。