司法書士内藤卓のLEAGALBLOG

会社法及び商業登記に関する話題を中心に,消費者問題,司法書士,京都に関する話題等々を取り上げています。

取締役が成年後見開始の審判を受けた場合の「委任の終了」

2024-11-08 17:44:46 | 会社法(改正商法等)
法制審議会民法(成年後見等関係)部会第9回会議(令和6年10月22日開催)
https://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900001_00262.html

 法制審議会の議論の俎上に上がっているようである(部会資料6 8頁以下)


〇 委任の終了事由
(1)現行法の規律
 民法第653条は、委任は、①委任者若しくは受任者の死亡(同条第11号)、②委任者若しくは受任者が破産手続開 始の決定を受けたこと(同条第2号)又は③受任者が後見開始の審判を受けたこと(同条第3号)によって終了すると規定する。

(2)規律の趣旨等
 委任は当事者間の個人的な信頼関係を基礎とするものであるとされており、民法第653条が定める委任事由の終了は、特別な人的信頼関係の基礎をなした当事者の属性が消滅又は変質した点に求められるとされる。そして、同条第3号については、受任者が精神上の障害により判断能力を欠く常況となり、後見開始の審判を受けるときは、委任者の信頼の基礎となった受任者の事務処理能力が失われたことを意味するから 委任が終了することになるとされる。

ア 会社法(平成17年法律第86号)第330条は、株式会社と役員(取締役、会計参与及び監査役をいう。以下同じ。)及び会計監査人との関係は、委任に関する規定に従うと規定する。そのため、役員が後見開始の審判を受けた場合には、その地位を失うことになる。この場合において、地位を失った役員が、会社法第331条の2等の会社法の規定に従い、再び役員に就任することは妨げられない。
 会社法の上記の規律については、後見開始の審判を受けた役員が当然にはその地位を失わないこととすると、当該役員が後見開始の審判を受けていないことを前提としてその者を役員に選任した株主の期待に反するおそれがあり、したがって、役員が後見開始の審判を受けた場合には、その時点において、役員がその地位を失うこととした上で、改めて、その者を役員として選任するか否かについては、株主総会の判断に委ねることとすることが相当であるとの考慮があるとされる。
 なお、「委任に関する規定に従う」との規定は、会社法第402条第3項及び第651条第1項のほか一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(平成18年法律第48号)等複数の法律に存在する。

イ また、会社法第331条の2は、成年被後見人及び被保佐人が取締役に就任するために必要となる手続について次のとおり規定する。なお、取締役選任の効力は、株主総会における選任決議のみで生ずるものではなく、少なくとも被選任者が就任を承諾することがその発生に必要であると解されている(最高裁平成元年9月19日第三小判決・集民157号627頁参照)。
 まず、成年被後見人が取締役に就任するには、その成年後見人が、成年被後見人の同意(後見監督人がある場合にあっては、成年被後見人及び後見監督人の同意)を得た上で、成年被後見人に代わって就任の承諾をしなければならない(会社法第331条の2第1項)。なお、同項は、保佐人が民法第876条の4第1項の代理権を付与する審判に基づき被保佐人に代わって就任の承諾をする場合について準用される。
 また、被保佐人が取締役に就任するには、その保佐人の同意を得なければならない(会社法第331条の2第2項)。なお、これらの規定によらないでした就任の承諾は初めから無効であるとされる。

ウ そして、会社法第331条の2第4項は、成年被後見人又は被保佐人がした取締役の資格に基づく行為は、行為能力の制限によっては取り消すことができないと規定する。
 この規律の趣旨については次のとおり説明される。
 すなわち、民法第102条は、制限行為能力者が代理人としてした行為は、行為能力の制限を理由として取り消すことができないと規定する。そして、成年被後見人又は被保佐人が法人の代表者として第三者との間で契約を締結した場合には、同条の類推適用により、当該契約は取り消すことができないと解することができると考えられる 。もっとも、取締役の資格に基づく行為はこのような対外的な業務の執行以外にも存在するが、それらについても同様に解することができるかは必ずしも明らかではない。
 この点、取締役の職務の執行については、その効果は株式会社に帰属し、成年被後見人又は被保佐人自身には帰属しないため、これらの者の保護を目的としてその取消しを認める必要性は乏しいとされ、また、株主は自ら取締役に選任した成年被後見人又は被保佐人によって発生する結果(不利益である場合も含めて)を引き受けるべきであるともいうことができ、株式会社やその株主の保護を目的としてその取消しを認める必要性も乏しいとされる。
 そこで、成年被後見人等がした取締役の資格に基づく行為は、行為能力の制限によっては取り消すことができないこととされる。

(4)検討
 これまでの部会において、民法第653条第3号について障害を有する者の社会的参画との関係でどのように考えるかとの意見等が出された。
 委任の終了事由に関する規律の見直しの要否については法定後見制度の見直しの内容を踏まえて検討する必要があると思われるが、現時点で、この点についてどのように考えるか。


 なお,令和元年会社法改正の前の法制審議会統治統治等関係部会の議論では,

「民法第653条第3号は任意規定と解されており,仮に,取締役等が後見開始の審判を受けたことを終任事由とする旨の規定を設けないものとする場合には,株式会社と取締役等との間において,取締役等が後見開始の審判を受けたことを終任事由としない旨の特約を締結することができると解することもできると考えられるが・・・・・取締役等の終任事由についても,会社法に明文の規定がないからといって,直ちに任意規定であると解することはできず,強行法規であると解することもできる。」

として,取締役等が後見開始の審判を受けたことを終任事由とする旨の規定等は設けられなかったものである。

cf. 平成30年6月26日付け「会社法制の見直し~取締役等の欠格条項の削除に伴う規律の整備」
コメント

債権者異議申述公告における個別催告の省略

2024-11-08 17:29:03 | 会社法(改正商法等)
 旬刊商事法務2024年11月5日号に,実務問答会社法第90回として,金子佳代「債権者異議申述公告における個別催告の省略」が掲載されている。

 1つめの論点は,公告方法の変更登記と債権者異議申述公告の掲載日の問題であり,公告掲載前に変更の登記を申請すべし,できれば完了しておくのが望ましいというもので,御説のとおりである。

 2つめの論点は,定款で定める公告方法が「日刊新聞紙」である株式会社がダブル公告を行う場合に,その時点で決算公告をしていないときの問題として,官報と日刊新聞紙の公告を同日付けで掲載し,日刊新聞紙の方にのみ貸借対照表の要旨を載せて,官報には,日刊新聞紙の名称,日付及び該当頁を記載するという方法が認められるか,というものである。「可能」という回答。

 そういうぎりぎりの事例もあるのであろうが,危ない橋を渡るな~,の感。日刊新聞紙に拘るのは,決算公告の義務は履行するが,広く閲覧に供したくない,ということなのであろうが。そうであれば,先に決算公告をしてからダブル公告の手続をとることができるように,余裕を持ったスケジュールを組むべきであろう。

 3つめの論点は,2の事例において,定款により公告方法を電子公告と定めている場合は如何,というものである。

 3つの選択肢を挙げた上で,「債権者異議申述公告と同日付で,電子公告による決算公告を行い,官報および電子公告による債権者異議申述公告のいずれにおいても,当該電子公告による決算公告のURLを記載する方法が,もっとも実務的かつ簡便な方法である」という回答であるが・・・。

 電子公告による決算公告は,「同日付」である必要はなく,さっさと行った上で,その後に債権者異議申述公告がされればよい。論点として取り上げるまでもないお話である。何か盲点に陥ったのであろうか。

 債権者保護手続における論点については,次の書籍でも解説しています。

cf. 拙編著「会社合併の理論・実務と書式(第3版)」(民事法研究会)2016年5月刊
http://www.minjiho.com/shop/shopdetail.html?brandcode=000000000863&search=%C6%E2%C6%A3%C2%EE&sort=
※ 498頁以下
コメント