tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

賃金統計の長期的推移の示唆するもの 2

2023年01月05日 16時05分24秒 | 経済
今朝からマスコミでは、岸田総理が、新年の記者会見で「インフレ率を超す賃上げをお願いしたい」と発言されたことを報道しています。

今日のこのブログでの問題も「賃上げ」です。賃上げは「労使の問題」と解っていて、それでも総理としえtの希望を述べたという事のようで、こうした客観的な発言が春闘の正常化にインパクトを持つものであってほしいと思います。

勿論、欧米主要国のように、黙っていてもインフレ率を超える賃上げをして、インフレが10%にもなり、慌てて金融引締めといった事には、日本の場合ならないから、こんな総理発言が出て来るわけで、まさに日本の「特殊事情」という事でしょう。

その日本特有の事情を「雇用者一人当たり雇用者報酬」のグラフで見てみましょう。

     雇用者1人当たり雇用者報酬 (単位:万円)

           資料:総務省「国民経済計算」、厚労省「労働力調査」

1995年というのは円高不況が本格的に深刻化した時期です。
「雇用者一人当たり雇用者報酬」は日本中の企業が1年間に支払った人件費を企業で働く者全て(社長からパートまで)の人数で割ったもの(日本経済全体の平均賃金水準)です。

ピークは1997年度の518万円です、バブル崩壊円高不況突入後も、未だ賃上げはあったのです。しかし1998年度からは、ほぼ下落の一途です。2003年度の475万円まで下げてその後「好況感無き上昇」と言われた時期多少持ち直しますが2008年のリーマンショックでまた大幅円高になり2012年度の456万円まで下げます。

その後は為替レート正常化($1=75円→120円)でアベノミクス時代に入りますが、2021年に至っても481万円と2005-2007年の「好況感無き上昇」の時期にも追いついていないのです。

円レートと、日本経済の競争力(例えば購買力平価)の関係は正確には計測不可能ですが、$1=110円でも、外国人が日本の買い物に来るのですから、日本の物価は割安なのでしょう。

そしてその割安を支えているのは、円安になっても賃上げをせず、低コスト、低物価を維持しているからという事なのです。

そのための当然、国際的に見て日本の賃金水準のランキングは下がり続け、賃金が上がらないので消費も伸びず、いわゆる「消費不況」になるわけです。

一方。円安でその分日本の企業の競争力は強くなりますから、企業収益は高水準になり、結果、経済は設備投資主導、海外投資増加で、「消費不足、投資主導」の片肺飛行になります。

アベノミクスが低成長に終わった最大の構造的原因は、円高の時には賃金水準を下げ、円安になっても賃金を上げなかったので、日本経済の消費と投資のバランスが円高以前のバランスに回復せず、消費不振経済になったことが主因だったことが解ります。

上のグラフで、2021年度の1人当たり雇用者報酬が「もし」550万円ぐらいになっていれば、日本経済は今頃長期不況前の状態に復元し健全成長の道を歩んでいたでしょう。

長くなるので次回にしますが、この日本経済の「一人当たり雇用者報酬」(日本経済全体の平均賃金水準)の「引き下げの方法」にまた大きな問題がありました。

次回はこの点に焦点を当てて見ます。