tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

賃金統計の長期的推移の示唆するもの 4

2023年01月07日 14時36分35秒 | 労働問題
賃金統計の長期的推移の示唆するもの 4
前回は、常用労働者の所定内賃金の平均が1995年から最近時点までの推移で多少の波はありますが、基本的に緩やかな上昇基調にあること、それに対して日本の雇用者全体の一人当たり人件費の平均は、景気の波に揺られながら今に至る1995年の水準に達していないことを見てきました。

 常用労働者所定内賃金と1人当たり雇用者報酬の推移 (指数:1995年=100)<再掲>

                 
これが何を表すかですが、既にお気付きの方も多いと思いますが、長期の円高不況の中で企業のコスト削減の中心であった賃金・人件費の削減は、雇用している従業員の賃下げではなく、賃金の安い非正規従業員の比率を増やす事で行われたことを示します。

正規従業員の数は、定年、自主退職、退職勧奨などの形で出来るだけ減らし、新しく採用するのは非正規従業員という形です。これが就職氷河期の実態です。

結果的に1995年ごろには15%程度だった非正規従業員は40%に近くなりました。

非正規従業員の平均賃金(現金給与総額)の月額は、厚労省の毎月勤労統計によれば、「一般労働者(主として正規)」35万円、パートタイマ―(1日あるいは週の所定労働時間が一般労働者より短い者)10万円という差があります。

こうした人件費削減策は、$1=240円が120円に、更には80円、75円になるという円高で、日本産業の国際競争力がほとんど失われた時期には「緊急避難策」として「失業よりパートでも仕事があった方いい」という意味でやむを得ぬ面もあったでしょう。

しかし問題は、こうした労働力の有効活用を犠牲にしたコスト削減策が長期に続くとき、社会は急速に劣化現象を起こすという問題があることです。
典型的には就職氷河期の新卒者の家庭では、いわゆる「80:50問題」などが見られます。

産業界に問われるのは、今の日本経済社会の主要な問題の原因を為替レートの正常化後も放置した責任です。

・非正規従業員の教育訓練が行われなかったための生産性低下、事故の多発。
・非正規の増加による低所得家庭の増加、格差社会化の深刻化。
・定年退職者の将来不安の深刻化が若年層にまで波及した将来不安。
・将来不安の深刻化による貯蓄志向と消費不振による経済成長の阻害。
・非正規の雇用不安定と低所得家庭の増加による少子化の傾向の増幅
・日本経済不振による国民の自信喪失。
数え上げればきりがありません。

こうした中で、漸く今春闘では、政府も経済団体も口を揃えて「賃上げ」を連呼しています。おそらくある程度の賃上げ率の上昇はあるでしょう
しかし「その程度で事は済むのでしょうか。」

勿論賃金の引き上げは必要でしょう。しかし、日本経済・社会がこんな事になったのはこの4回連続の分析で見てきましたように、みんなの賃金を下げたのではなく、雇用者の4割という巨大で極めて低所得の非正規労働者群を創りだしたことにあるのです。

教育訓練の行き届いていない、その結果生産性の低い、単純、あるいは未熟練労働者を1人前の熟練労働者、高度技能者、高度人材に作り上げる努力が日本産業社会には必要なのです。

この努力は、2014年アベノミクスの初期、円レートが120円になった時から、緊急避難の解除、平常時への復元政策として、増加した円高差益を活用し、産業界が率先し、政府も協力して着実な復元の環境整備を取るべきだったのです。

このブログでは2013-2014年にかけて非正規労働者の正規化の問題を先ず取り上げることを繰り返し書いてきました。

残念ながら、この10年は無為でした。遅れた分時間はかかるでしょう。今年の春闘から始めて、最低5年はかけてこの問題を軌道に乗せれば、その上に新たな日本経済の力強い成長発展の時代を創りだしていく可能性は見えてくるのではないでしょうか。