tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

国際競争力が維持できる範囲のインフレは健全

2023年09月15日 15時20分06秒 | 労働問題
先日、「賃上げか物価抑制か:当面する経済対策」というテーマで、日本の今の情勢では、物価上昇を何とかしようと努力するよりも、ある程度のインフレを許容する覚悟で思い切った賃上げを行い、インフレの中で、いろいろな矛盾を調整する方が推奨される政策ですという趣旨のことを書きました。

日本の政府・日銀も「2%インフレターゲット」という政策を共に掲げているのですから、経済運営の環境としては、多少のインフレがあった方が望ましいと考えているのでしょう。

2%インフレターゲットは、当時アメリカの2%に追随したものと感じて、アメリカが2%なら日本は1%ターゲットでもと書きましたが、経済状態というのはデフレよりインフレの方が良い事は明らかです。(「デフレ3悪」参照)

しかし多くの国の指導者がインフレを恐れるのは、過去の世界経済の歴史を見れば、インフレというのは進み始めると、とめどなく進む危険性が高く、結果は国際競争力を喪失し、経済破綻という例が数多いからでしょう。

今の世の中ですと、変動相場制ですから、輸入インフレが賃金インフレを呼び、結果は通貨価値の下落となって、インフレを昂進させ、更なる賃上げを呼ぶという、賃金上昇、通貨価値下落、インフレ昂進の三つ巴のスパイラルになるのです。

これを避けるためにFRBもECBも、金利を引き合上げ、インフレを止めることに腐心しているのです。

ところで日本ですが、輸入インフレを賃金インフレに繋げないという良識を労使が持っている稀有な国です。その国が、アメリカの金利引き上げのトバッチリで賃金上昇をしないのに大幅な通貨価値下落(円安)に直面しているのです。

当然一部に「円安による輸入インフレを国内インフレに転嫁」しようという動きが出て来ています。しかし最大のコスト、賃金は上がっていません。
ですから円安で、国際競争力は大幅強化。輸出企業は大幅増益、一方、輸入エネルギー価格上昇分は政府のバラマキ補助金で潤い、結果は日経平均の大幅上昇です。

ではその皺は何処に寄っているかと言えば、「実質賃金の低下・消費需要の低迷」と「財政赤字、国債増発=将来の国民負担」で、この2つは、国民の「今日の消費生活と将来負担」という事でしょう。

こうした日本経済の構造的歪みを正すとすれば、国民の暮らし「家計」への配分を円安による目減りに応じて増やす(賃上げか減税)しかないのです。

政府は「国民に寄り添う」と言いながら、本当は「国民に寄りかかって」政権維持に狂奔、国民経済の衰退は放置しているという事になります。

日銀は、FRBに対抗し、経済理論と金融政策を駆使して、こうならない様に早めの手を打つべきでしょうが、答えは生成AI の様に早く出て来ないのが現実です。

嘗ての若い日本だったら、労働組合が大幅賃上げの旗を掲げ、野党は結集、こぞってバックアップという構図が見られたのかもしれません。

頑張って10%ぐらいの賃上げを勝ち取っても、日本の国際競争力はびくともしないでしょうし、経済の活況で生産性も上がってお釣りがくるでしょう。

日本人が皆大人しくなって、世の中も安定しているように見えますが、何処かで「芯」が確りしていないと、行く先が心配です。