tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

PBR狂騒曲:株価が上ればそれでいいのか

2023年09月04日 14時49分25秒 | 経営
事の起こりは、今年3月に東京証券取引所が「日本の株価はもっと高くあるべきだ」という趣旨でしょう、「日本の多く企業ではPBRをもっと高めることが望ましい」という意向を示したことです。

さてPBRとは何でしょうという事になります。 
これは証券用語で「Price Book-value Ratio(株価純資産倍率)」で、Priceは株価、Book-valueは1株当たり純資産額で、解り易く言えば、「今、この企業を解散して、残った純資産を株主で分けると株価より多くもらえる(PBR1以下)、少なくなる(1以上)という事です。

東京証券取引所の発言は、純資産の価値よりも、企業の将来性が評価されて、その期待が、株価に反映されるような企業になってくださいという事なのでしょう。

欧米ではPBR1以上の企業が多いようですが、日本では1以下の企業が上場企業の半分以上(今年3月現在)でそんな状態は異常とみられているとのことです。

そういう事で、その後日本の上場企業では「自社株買い」が増えたようです。
自社株を買えば、市場に流通する株がそれだけ減ります。当然自社株買いの分は消却が前提ですから、配当が増えると判断されて株価が上がり、PBRが上がります。

企業経営でいえば、本来の趣旨は、やっている仕事の割に持っている資金量が多い状態ですから、その資金を生かして、もっと経営を積極化し、その企業の株を買う人が増えて、株価が上りPBRが高くなるというのが望ましいという事なのでしょう

確かに、アベノミクスの第一弾で円安が実現し、企業収益の水準は大きく回復しましたが、その後が上手く行かず、日本経済は低成長を続け、企業はビジネスチャンスの発掘・発見が難しく、企業収益改善の割に、企業活動の不振が続いた事の影響もあったでしょう。

その意味では、これから、日本経済の雰囲気が少し変わってくれば、PBRが高くなる可能性もあるように思います。

しかし、BPRが高ければいいかといいますと、それも問題でしょう。
企業にとって株価が何を表すかを考えてみれば、明らかですが、株価というのは人気投票に似たところもあり、常に会社の実態を適切に反映するものではありません。

乱高下する事もあります。積極経営、リスクテイクに積極的な企業に多いようです。
日本の場合には、「積極経営」も大事でしょうが「健全経営」がより大事という意識が強いという意見もあります。

経営の神様と言われたピーター・ドラッカーが、かつて日本に来て、日本には100年以上も続いている会社がいくらでもあることに驚き、経営の永続性が彼の経営学の柱にもなっていると言われます。

日本では戦後の経済成長期、経営者自身から「企業は公器」という言葉が聞かれました。私企業であっても、社会に役立つ公器で、安定して存続し、社会に貢献し続ける存在でなければならないという意識です。

リスクテイクの精神も発展のためには重要でしょう。しかし、儲けるためにやったのだから自分の都合で売却しても廃業しても自由というのは、日本本では通らないでしょう。

証券業界が、株は高い方がいいという気持ちは解りますが、企業経営者としては、社会的責任を自覚した適切なバランス感覚が大切でしょう。