tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

「持続的賃上げ」:企業は利益追求だけでいいのか

2023年09月28日 14時19分32秒 | 経営
前回は連合への期待でしたが、今回は企業のサイドの意識について考えてみましょう。ここでの分析は統計的に日本企業がとってきた行動という状況証拠が中心ですので、個々の企業では、行動は多様でしょう。

プラザ合意による円高は、$1=240円が120円になるという大幅でした。もしこれが日本以外の国で起きたら、経済は大混乱に陥り破綻するのではないかと思うような円高です。

日本の企業はこれを徹底したコスト切り下げで乗り切り、2002年には、当時の言葉で「好況感なき上昇」という段階に入りました。2007-8年の就活は売り手市場になるまでに良くなっています。

しかしこの努力の成果は「リーマンショック」の際のバーナンキFRBのゼロ金利政策による$1=75~80円という円高によって壊滅、新たなコストカットに呻吟します。
日本は政府も企業も「研究開発から人材育成まで」あらゆるコストカットをしましたが、それでは却ってジリ貧で結果は出ません。

結局この窮地を脱出したのは2発の黒田バズーカです。バーナンキ理論を借用した「異次元金融緩和」という円安政策による$1=120円という円安の実現です。

これで日本経済は完全復活可能という事で、「アベノミクス」は船出しました。政府・日銀は「2%インフレ目標」達成は2~3年の内と考え、企業は、円安のお蔭で、これまでのコストカットの成果を満喫、忽ち「収益性の高い日本企業」に変身しました。

そしてここから新しい問題が発生したのです。
円高に耐えた日本企業ですが、円安にどう対処するかの知恵を発揮する前に、チャンスとばかり収益性を高め、資本蓄積に専念したようです。

その典型的な行動は、円高対応の時に使った禁じ手「賃金の安い非正規社員の活用」です。
円高不況の下では、雇用第一で、非正規雇用で失業抑制も合理性を持ったでしょう。
しかし、円安になってからも、非正規社員の比率は減らず、逆に増えているのです。

当時、非正規の正規化の動きもありました、しかし、残念ながら、それは統計に影響が出るほどのものではありませんでした。

企業にとっては、それまでの長期不況、特にリーマンショック後の企業の惨状からの復活志向、更にはアメリカ流の、企業の目的は「利益」、「時価総額の極大化」といった経営理念の変化もあったのでしょう。

こうした中で忘れ去られたのが、円高の時のコストカット策で大幅に減らした人件費回復への配慮だったようです。賃下げの難しい正規従業員を削減、補充は非正規従業員、それによって総額人件費をおおはばに下げたという事実です。

円安による利益増には人件費の削減が最も大きく効いているのです。円安になった時、企業は、先ず非正規の「正規化」で日本の雇用構造を安定したものに復元する形で、日本の労働市場にカットした人件費のお返しをするべきだったのです。

つまり、円安の利得は、労働市場にも適切に配分されなければならないのではないです。なのに円安になってからも非正規を増やすといったことは、従業員の技能と努力が企業を支えているという、人間中心の日本的経営からは考えられないことでしょう。

この労働市場への分配、日本経済の総額人件費の見直しは、具体的には、先ず非正規の正規化という雇用構造の見直し、従業員全体への賃金水準の回復という形で行われるべきでした。
この、円安の利得の人件費への配分が「忘れられていた」ことが、家計の衰弱、消費不振による日本経済の低成長の最大の原因だったのでしょう。

政府は「持続的賃上げ」ですが、その中身は、雇用構造の復元(教育訓練費注入が必要)、賃上げによる円安利得の賃上げによる家計への還元、そしてそれによる消費需要の活性化が当面の必須事項です。
そして、それによる消費活性化で、日本経済が正常に回り始め、経済成長が始まって、初めて「持続的賃金上げ」が可能になるという順序でしょう。

単に「持続的賃上げ」では、賃上げの中身も幅も解りません。持続的賃上げには、持続的成長が必要です。企業は実践部隊ですからその中身を分析し、それぞれに的確に対応する必要があるのでしょう。

経済団体もいろいろありますが、足並みを揃えて、日本経済の再建に協力してほしいものです。