tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

「持続的賃上げ」のリーダーは連合のはずですが

2023年09月27日 15時02分16秒 | 労働問題
「持続的賃上げ」について前回は政府・日銀の「2%インフレ目標」と絡めて書きましたが、「続き希望」のクリックもあり、やっぱり賃上げの実行部隊である労使についても見てみたいと思います。先ずは労働サイドです。

昔、日本の春闘は「スプリング・オフェンシブ」などと英訳されていましたが、「オフェンス」は攻撃という事ですから主役は労働組合、日本ではその代表である連合でしょう。

今年の春闘での連合の要求基準は「定昇2%程度を含む5%」で、その内の3%は日本経済の成長に見合った分という事でした。
昨年までは2+2の4%で、今年は日本経済が活況を取り戻すからと1%プラスだったのでしょう。

この考え方は、政府・日銀の「2%インフレ目標」基づいている一見極めて妥当なものです。理由は、どちらも「名目賃金上昇率-実質国民経済生産性上昇率=物価上昇率」の公式を前提に「4-2=2」、「5-3=2」と置いたものでしょう。

今年の連合は、日本経済が元気になって実質経済成長率が実質3%(注)になるだろうから5%要求にしても物価上昇は「5-3=2%」、だから「+1%」は許されるとの考えでしょう。

こんな真面目な労働組合は多分世界中で連合だけでしょう。日本経済との整合性をきちんと考えて、賃上げ要求をしているのです。

何処の国でも「物価が上がった、それ賃上げ」というのが普通です。当然物価上昇以上の賃上げ要求で、その賃上げが賃金インフレを起こして、忽ち今の欧米の様に10%レベルのインフレになるのです。

連合が上述のような真面目な考え方を持ったのは、多分、第一次石油危機がきっかけです。原油輸入が止まりトイレットペーパー・洗剤パニック、急激なインフレが起き、物価上昇をカバーしようとして33%の賃上げを獲得しましたが、経済はゼロ成長で、賃金インフレを引き起こした経験です。日本は高インフレの国になり、忽ち国際競争力を失って破綻すると言われました。

アカデミアは「いくら賃上げを取っても経済成長がなければ生活は良くならない」と明言し、当時労働運動のリーダーだった鉄鋼労連中心に「経済整合性理論」が生まれ、日本経済の実態に整合した賃上げが望ましいという理論が労組の中でも支配的になったことが理由でしょう。

政府も頑張りました。原油供給国の「アラブ寄り」の政策を急に重視し、市井では「アラブ寄り」ではなく「アブラ(油)よりだ」などと言われました。

その意味では連合の考え方は極めて真面ですが、そのあと日本を襲った為替レートの大変動、「プラザ合意」、「リーマンショック」による大幅円高、そしてその揺り戻しである黒田バズーカによる大幅円安への対応について、政府・日銀の対応失敗の中で、連合も同じ固定相場制前提の「経済整合性理論」を墨守したことは残念というべきでしょう。(そして今の円安の中でも・・・)

一口で言いますと、「円高は賃上げと同じ効果を持ち、円安は賃下げと同じ効果を持つ」という「ドル建ての経済との整合性」を考慮しなければならないという点に尽きるでしょう。

これは今の国際化し、マネー経済化した世界経済の中では当然のことですが、その理論的構成がまだ十分できていない中で、現実の方がどんどん進んでいる事の結果でしょう。

このブログで指摘しているのは、円高の時は日本経済は「試行錯誤」を繰り返しながら必死で対応し切りましたが、円安の中ではアベノミクス、今日の「持続的賃上げ論」など、未だに試行錯誤の真っ只中でしかないう現状です。

連合が「円安は賃金引き下げと同じ効果を持つ」という変動相場制の中での現実をベースにし、来春闘に向けて如何なる賃金理論の下に如何なる賃金要求を打ち出すか、「持続的賃上げ」を超える賃金理論の下にいかなる「賃上げ要求」を打ち出すか、連合の「オフェンス」が日本経済の活性化を生み出す効果を見たいと思っています。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(注)就業人口は短期的には余り変わりませんから、実質国民経済生産性上昇率と、実質経済成長率はほぼ等しいとしています。