手話通訳者と外国語通訳者が常駐する病院をつくろうとの取り組みが始まったそうだ。
私たちは3月にコミュニティ通訳研修会を開くが、このような取り組みが全国へ広がったらいいねえ。そのためには手話通訳者が視野を広げることがまず必要。
命守る言葉…医療通訳、初の常駐へ 有志が大阪で設立
大阪府枚方市の市民病院が建て替えられるのを機に、医療者とコミュニケーションをとるのが難しい聴覚障害者や外国人らが、適切な医療を受けられるよう市に医療通訳の整備を求める会を5月に立ち上げることが9日、分かった。今月12日には準備会を行う。関係者によると、手話と外国語の通訳がともに常駐する医療機関は過去にも例がないとみられるという。
会は「枚方市の医療通訳を実現させる会」で、5月14日に設立総会を開く。設立を呼びかけたのは同市在住の寺嶋幸司さん(47)。妻の久枝さん(49)は聴覚障害者で、市民病院をしばしば利用する。同市には手話通訳派遣制度があるものの、事前申し込み制のため、突然の発病や入院時の医師の回診など、急にコミュニケーションが必要な事態には対応できず、久枝さんも入院中に困ることが多かったという。
「医療は専門用語が多い。知識を備えた通訳が常駐してほしいと痛感した」と寺嶋さん。そんなとき、知り合いの医療通訳から、日本語が理解できない外国人も同じように医療者とコミュニケーションがとれない状況に置かれていると聞いた。「自分の体の状態が分からないのは、どれほど不安だろうか…」
寺嶋さんとともに活動する島田二郎さん(66)は、そのつらさが切実に分かる。8歳で聴覚を失った。35年前、予防接種を受けた赤ん坊の容体が急変し、医師との意思疎通ができぬまま最愛の娘を亡くした。「最後まで何が起きているのかわからなかった」。通訳の存在は命にかかわる問題と訴える。
アメリカでは、「医療通訳」といえば外国語通訳だけでなく手話通訳も含まれると知ったことにも後押しされ、寺嶋さんらは市内在住の外国人とともに、市に医療通訳の整備を働きかけていく会の設立を決めた。
枚方市によると、身体障害者手帳を持っている市内在住の聴覚障害者は約千人、外国人登録者数はおよそ4100人。新市民病院は平成25年度に完成予定で、「医療通訳が常駐する核になり、他病院で必要になった際にも派遣する仕組みをつくれば、市内全域でニーズに対応できる」と寺嶋さんは話す。
12日の準備会では、寺嶋さんや島田さんがかかわる聴覚障害者団体のメンバーに呼びかけ、在住外国人とともに幅広い活動を展開していく方針を確認する予定。「安心して医療を受けられるシステムづくりを」と2人は期待を寄せる。
米では常識…画期的、全国へ 大阪「医療通訳を実現させる会」
医療通訳士協議会(事務局・大阪府吹田市)の会長を務める中村安秀・大阪大大学院教授や事務局長の竹迫和美さんによると、アメリカでは病院の規模にかかわらず医療通訳の配置が義務づけられており、患者は無料で利用できるという。
しかもスペイン語、アラビア語、中国語、フランス語、日本語、タガログ語、スワヒリ語など、希少言語も含め多くの言語に対応しているといい、手話も含まれる。「『コミュニケーション』という視点で考えれば、聴覚障害者も、英語を理解できない人も同じ困難を抱えている」(中村教授)からだ。
そこに目を向けた今回の「枚方市の医療通訳を実現させる会」の試みを、中村教授は「画期的」と評価。「日本で医療通訳の歴史は浅く、一方で手話通訳には長い歴史と実績がある。枚方が外国語にも手話にも対応できる新しい医療通訳システムを築き、成功例になれば日本全国で応用できるだろう」と話している。