10日(日)。昨日の朝日朝刊 社会面に「本の値段 税込み表示に悲鳴 カバー替えに費用 出版中小『ギリギリ』」という見出しの記事が載っていました 超訳すると、
「書籍の価格表示は現在、『本体〇〇円+税』といった消費税の金額を記さない表記が一般的だが、4月からは消費税込みの総額表示が義務化される見通しだ 書籍は息の長い商品が多く、カバーの掛け替えなどで膨大な費用と手間がかかるという懸念が広がる 出版界からは、現状の表記の維持を望む声が上がっている 商品価格は、2004年に消費税法改正で総額表示が義務付けられたが、その後の段階的な消費増税を見越して、消費税転嫁対策特別措置法で13年から21年3月末まで 書籍に限らず、期間限定で免除されている 日本書籍出版協会(書協)などは、19年から特例の継続を求めてきたが、昨年9月に財務省が改めて予定通りの義務化を説明した これを受け、中小出版社が多く加盟する日本出版者協議会は、特例の無期延長などを求める声明を発表した。書協も加盟社へ実施したアンケート結果などを踏まえ、11月に改めて特例の延長を財務省に求めた 出版業界は、1989年の消費税導入時に書籍の回収やカバーの掛け替えなどで膨大なコストがかかった苦い経験もあり、中小出版社を中心に不安は消えない 出版業界に詳しいライターの永江朗さんは『国は現状の表記を容認すべきだ。コスト負担が大きくなれば、体力のない中小の出版社は絶版や裁断をせざるを得なくなる。出版文化の多様性が失われてしまう』と語る」
これは、特定の業界に特例措置を継続すべきであるとかないとかの問題ではなく、国が「出版文化」をどう捉えるかの問題です 残念ながら、最近はろくに本も読まずスマホだけを頼って生活している人が増えているのが現状です 書籍は人によっては「なくても生きていける」ものかもしれませんが、音楽や美術などと同様 人間が生きていく上で とても「大事なもの」です 文化の火を消すようなことがあってはならない 財務省は出版業界の窮状を理解したうえで、特例措置を継続すべきだと思います
ということで、わが家に来てから今日で2292日目を迎え、トランプ米大統領は8日、今月20日に予定されているバイデン次期大統領の就任式に出席しない意向を表明した というニュースを見て感想を述べるモコタロです
トランプは罷免されるか弾劾されるかどちらかだ 就任式に出席する資格はない!
昨日、新文芸坐で、菊島隆三・小國英雄・黒澤明脚本、黒澤明監督による1962年製作映画「椿三十郎」(モノクロ・95分)を観ました
神社のお堂に若い侍たち9人が密儀のため集まっている 伊坂伊織(加山雄三)ら正義感の溢れる彼らは、次席家老・黒藤(志村喬)の汚職を知って城代家老・睦田弥兵衛(伊藤雄之助)に意見書を提出したが、彼はそれを破き、懐にしまってしまった 次いで、大目付の菊井六郎兵衛(清水将夫)に話をすると 彼は驚き、どこかに集まって策を練ろうと提案した。そこで彼らは菊井を待っていたのだった そこへ、お堂の奧からみすぼらしい着物の浪人(三船敏郎)が現れる 彼は侍たちの話を盗み聞きしていて、菊井こそ怪しいと言う 案の定、菊井は配下の者を大勢差し向けて若侍たちを捕らえようとした 浪人は若侍たちを隠して、一人で侍たちをなぎ倒す。そこに菊井の懐刀の室戸半兵衛(仲代達也)が現れ、一旦侍たちを引き上げさせる。浪人は城代が危ないと言い、若侍たちは城代の屋敷に赴く 浪人の言う通り、城代とその一族郎党は捕らえられ、屋敷は菊井の手下が占拠していた 若侍たちは何とか城代家老・睦田の奥方と娘を救い出して話を聞くと、菊井は汚職の罪を城代になすりつけて牢に閉じ込めてしまったという 若侍たちは黒藤の屋敷の隣にある若侍の一人・寺田の家に潜伏する。黒藤の屋敷は別名「椿屋敷」と呼ばれるほど椿が見事だった。陸田の妻から名を問われた浪人は壁越しに椿を眺めながら「椿三十郎」と名乗る。 三十郎は情報を得るため仕官を望む振りをして室戸半兵衛のところに赴く。その行為を裏切りと誤解した若侍の一部が浪人を尾行するが、室戸半兵衛配下の人質になってしまう 三十郎は彼らを助けるために大勢の侍たちを斬らなければならなくなり、若侍たちへの怒りが爆発し、彼らを平手で殴る 若侍の1人が屋敷へ落ち着き、一同が策を練っていると、庭の小川に紙が流れてくる。調べてみると、城代が破って懐に入れた意見書だった 小川が流れてくるのは隣の黒藤屋敷からだった。城代が隣にいると知り、三十郎が再び室戸を訪ねる。若侍たちが町はずれにいると嘘をつき、配下の者をそちらへ向かわせている間に城代を連れ戻そうという策だった しかし、合図となる椿の花を取っている時に室戸にその作戦がばれて、三十郎は囚われてしまう 三十郎は菊井らに、間もなくこの屋敷は襲撃されると話し、大量の白い椿の花を流すのが中止の合図だと嘘をつく 菊井らが白い椿の花を小川に流すと若侍たちが襲撃し、無事に城代と三十郎を助け出す 汚職は暴かれ、菊井は裁かれる 三十郎も任官が叶うはずだったが、彼は勝手に去ってしまう 若侍たちは城代の妻に命じられて彼の後を追う。そして、彼らは三十郎と室戸が決闘する場面に遭遇する 決闘の結果 室戸が負け、血しぶきを上げて絶命する。三十郎は「あばよ」と告げて立ち去る
この映画は、山本周五郎原作「日日平安」の脚本がベースになっています 当初 原作に忠実に、気弱で腕も立たない主人公による殺陣のない時代劇としてシナリオ化されましたが、東宝側が難色を示したことから実現しませんでした その後、「用心棒」の興行的成功から「用心棒」の続編をと東宝から依頼され、黒澤は「日日平安」のシナリオを大幅に改変し、主役を腕の立つ椿三十郎にしてシナリオ化しました 「用心棒」の桑畑三十郎が「椿三十郎」になって再登場したわけです
三船はこの映画でも40秒で30人を斬るという目にも止まらぬ圧巻の殺陣を演じています 一方、9人の若侍たちは、ほとんど抜刀の場面がないにも関わらず、黒澤監督は真剣を帯刀させたため、撮影中に刀で自分の手を切った者もいたそうです どこまでもリアリズムに徹する黒澤監督らしいやり方です
リアリズムと言えば、この映画では殺陣のシーンで、刀がぶつかり合い肉が切れる効果音や、飛び散る血飛沫が描かれています 「飛び散る血飛沫」ということでは、ラストの三十郎と半兵衛の決闘場面では、居合抜きで斬られた半兵衛の胸から血飛沫が激しく吹き上げます このシーンは、半兵衛の胸に仕込んだ液体をポンプの圧力で飛ばすという仕掛けになっていました 前作「用心棒」における三十郎(三船)✕ 卯之吉(仲代)に次ぐ同じ俳優による決闘シーンです 日本映画でこれほど有名な決闘シーンはないでしょう 三船は速く抜くため刀身を5寸ほど短くしたいと提案したといいますが、このシーンでは瞬きも出来ませんでした ところが、「椿三十郎」以降の日本の時代劇映画で黒澤の手法を用いた描写が流行したため、一時は欧州の新聞が映画祭のルポで、「日本の時代劇のヘモグロビンの噴射は、もうたくさんだ」と悪口を書き立てたため、黒澤監督は強い罪悪感を抱き、「人を斬る音と、血の噴出を日本の時代劇で流行させてしまった本家本元は自分だ」と言って、「椿三十郎」の後は、豪快なチャンバラ映画を作らなくなってしまいます 1965年の「赤ひげ」は時代劇ですが、三船の抜刀シーンはありません
お家騒動に挑む若侍たちに力を貸す椿三十郎は単に強く豪快なだけでなく、ユーモアもあり人間味に溢れています 個人的には、黒澤監督 ✕ 三船主演による時代劇のベスト3は「七人の侍」(1954)、「用心棒」(1961)、「椿三十郎」(1962)の3本だと思いますが、痛快さという点では「椿三十郎」がベスト1だと思います