24日(日)。わが家に来てから今日で2306日目を迎え、今夏に延期された東京五輪・パラリンピックの観客数について、政府、東京都、大会組織委員会はIOCからの要請により「上限なし」「50%」「無観客」の3案を想定していることが分かったが、東京都医師会の尾崎会長が今月中旬 朝日新聞に取材に応じ、大会計画では医師や看護師ら計1万人以上が競技場や周辺の救護所で選手や観客の医療に当たることになっていることを踏まえ、「いろんな国から人を呼び、世紀の聖典をやろうという発想は捨てないと無理」と厳しい認識を示し、「選手のことを思えば、開催できたらいい。五輪の本来の目的は、選手が集まり、競技できることだろう。そこに目標を置くなら、無観客から議論を始めるべきだ」と述べた というニュースを見て感想を述べるモコタロです
感染状況が収まらない中で医療従事者が五輪に取られたら国民の命は誰が守るのか
昨日、新国立劇場「オペラパレス」でプッチーニ「トスカ」のプルミエ(初日)公演を観ました キャストは、トスカ=キアーラ・イゾットン、カヴァラドッシ=フランチェスコ・メーリ、スカルピア=ダリオ・ソラーリ、アンジェロッティ=久保田真澄、スポレッタ=今尾滋ほか。管弦楽=東京交響楽団、合唱=新国立歌劇場合唱団、児童合唱=世田谷ジュニア合唱団、指揮=ダニエル・カッレガーリ、演出=アントロネッロ・マダウ=ディアツです
新国立オペラの「トスカ」は全てアントロネッロ・マダウ=ディアツによる同じ演出ですが、私が「トスカ」を観るのは2000年、2002年、2003年、2009年、2012年、2015年、2018年に次いで、今回が8回目です それだけ演出・舞台が優れています
時は1800年6月。オーストリア支配下のローマ共和国の画家カヴァラドッシは、脱獄した友人アンジェロッティを匿った罪で捕らえられる トスカを我が物にしようと狙う警視総監スカルピアは、トスカの面前で恋人カヴァラドッシを拷問し、命を救う代償として体を要求する トスカは取引に応じ、カヴァラドッシを形だけの死刑とする約束を取り付け、出国許可証を手にするが、偶然手にしたナイフでスカルピアを刺し殺す 明け方、見せかけのはずの絞首刑が行われるが、カヴァラドッシは本当に銃殺されて死んでしまう 失望したトスカは「おお、スカルピア、神様の御前で!」と叫び城の上から身を躍らせる
今回、新国立劇場から与えられた席(席は自分で選べない)は2階3列34番、センターブロック右通路側です A席ですが、S席に近い条件の良い席です 会場は驚くべきことに、感染予防のため空席となっている1階前方の2列を除き、9割以上の観客が入っています 新型コロナウイルス感染の拡大を受けて世界中のオペラ劇場が閉鎖される中で、こうした状況はとても信じられない出来事ではないか、と思います しかし、主催者側は入場時の体温チェック、手指のアルコール消毒などを施し、聴衆は全員マスク着用を義務付けられるなど、徹底的なコロナ対策が施された上で上演されていることを忘れてはなりません この日 会場に集まったのは、オペラは「不要不急なこと」ではなく、「大事なこと」だと考える人々だったと言えるでしょう
さて、このオペラには「序曲」がありません いきなりスカルピアを暗示するテーマで幕が開きます ダニエル・カッレガーリ指揮東京交響楽団の集中力に満ちた演奏が、一気にトスカの世界に誘います
このオペラの悲劇たる由縁は、ヒロインであるトスカの嫉妬心が基になっています 第1幕でスカルピアがアンジェロッティの妹アッタヴァンティ夫人の扇子を見つけると、彼は「イヤーゴはハンカチを使って男心をかき乱す嫉妬心を煽った。自分は扇子を使う」と語り、カヴァラドッシがアッタヴァンティ夫人と密会しているように思わせトスカの嫉妬心を煽ります ヴェルディの歌劇「オテロ」における悪役イヤーゴの陰謀を応用したわけですね
ヒロインのトスカを歌ったキアーラ・イゾットンはイタリア・ベッルーノ生まれのソプラノですが、艶と深みのある力強い歌唱で聴衆を魅了しました とくに第2幕のアリア「歌に生き、愛に生き」は、わざとらしさのない自然な演技でトスカの悲しみを歌い上げ、聴いていて鳥肌が立ちました
カヴァラドッシを歌ったフランチェスコ・メーリはイタリア・ジェノヴァ生まれのテノールですが、無理のない美しい高音が魅力で、声に力があります 第1幕でトスカを讃えるアリア「妙なる調和」、第3幕で歌うアリア「星は光りぬ」を感動的に歌い上げました
スカルピアを歌ったダリオ・ソラーリはウルグアイ出身のバリトンですが、魅力のある声質で悪役を歌い演じました 私がこのオペラで一番好きなのは、第1幕フィナーレで、「テ・デウム」が演奏される中、スカルピアが悪辣な心情をアリア「行け、トスカ」で吐露し、荘厳な合唱と悪辣な心の両極が融合されて演奏されるシーンです 音楽が素晴らしく、荘厳な演出が素晴らしい このシーンはいつもワクワクします
なお、2月に上演予定の「フィガロの結婚」でフィガロを歌う予定だったフィリッポ・モラーチェがコロナ禍の影響で来日できなくなったため、ダリオ・ソラーリが代わりに歌うことになったそうです また、伯爵夫人役はセレーナ・ガンベロ―二に代わり新国立オペラ「夏の夜の夢」でヘレナを好演した大隅智佳子が歌うとのことです
ダニエル・カッレガーリ指揮東京交響楽団は歌手に寄り沿いつつ、時にオーケストラ自ら トスカやカヴァラドッシの心情を歌い上げていました とくに、第3幕で処刑を前にしたカヴァラドッシの心情を表現したチェロの演奏は深い感動を呼びました
演出上で気が付いたのは、トスカとカヴァラドッシの抱擁シーン以外は、歌手同士のソーシャルディスタンスが取られていたことです
ところで、スカルピアはトスカの目の前でスポレッタに「パルミエリの時のように、見せかけの(方法で)」カヴァラドッシを処刑しろという命令を下し、トスカは「見せかけの処刑だから、カヴァラドッシは死なない」と信じますが、実際には銃で撃たれて死んでしまいます 彼が倒れた後、兵士の一人がトドメを刺そうとするとスポレッタがそれを押しとどめ、そのまま兵を引き上げさせます つまり「パルミエリの時のように」というのは、銃殺はするが、最後のトドメは刺さないという処刑方法だったのです トスカはまんまと騙されたわけです
終演後には、禁止されているブラボーのかけ声の代わりに大きな拍手が会場を満たす中、手をつながないカーテンコールが繰り返されました いつになったら”普通の”カーテンコールが出来るようになるのでしょうか
最後に苦言をひとつ 「トスカ」のプログラム冊子13ぺ―ジの「聴きどころ」の「第1幕 聖アンドレア・デッラ・ヴァッレ教会」の下から6行目に「静まり返ったところでスカルピアが堂守を尋問。アンジェロッティが隠れていた礼拝堂から彼の姉アッタヴァンティ侯爵夫人の扇子が見つかると、スカルピアは・・・・」という記述がありますが、「姉」ではなく「妹」の誤りです 単純な誤植だと思いますが、天下の新国立劇場にはしっかりしてほしいと思います