15日(月)。13日に実施された「大学入学共通テスト」第1日目には全国の49万1914人の志願者が受験したそうです 昨日の新聞各紙に問題と解答が掲載されていましたが、「国語」の第1問を見て「おやっ?」と二度見しました 「第1問 次の文章を読んで、後の問い(問1~6)に答えよ」とあり、本文の冒頭は次のように書かれています
「モーツアルトの没後200年の年となった1991年の、まさにモーツアルトの命日に当たる12月5日に、ウィーンの聖シュテファン大聖堂でモーツアルトの『レクイエム』の演奏が行われた(直後にLDが発売されている)。ゲオルグ・ショルティの指揮するウィーン・フィル、ウィーン国立歌劇場の合唱団などが出演し、ウィーンの音楽界の総力をあげた演奏であるのだが、ここで重要なのは、これがモーツアルトの没後200年を記念する追悼ミサという『宗教行事』であったということである。それゆえ、随所に聖書の朗読や祈りの言葉等、『音楽』ではない台詞の部分や聖体拝領などの様々な儀式的所作が割り込む形になる。まさに『音楽』であり『宗教行事』であるという典型的な例である」
本文はまだ長々と続きますが、「レクイエム」「LD」「ゲオルグ・ショルティ」「ウィーン・フィル」には注釈が付されています それはそうでしょう。ウィーン・フィルはともかく、LD(レーザーディスク)に至っては今や死語ですから 第1問の最後には(渡辺裕「サウンドとメディアの文化資源学ー境界線上の音楽」による)と出典が明示されています
設問は①漢字の能力を問うもの(4択)5問と ②文章中の線を引いた部分の解釈を問うもの(5択・4択)5問から構成されています このうち②は1度読んだだけでは回答が困難な問題です この難問に取り組んだ49万人以上の受験生に敬意を表します
ところで、大学入学共通テストの問題に音楽評論が取り上げられるのは極めて珍しいのではないか、と思います この設問の問題作成者(どこかの大学の教授か?)は、クラシック音楽に少なくとも興味はあるのではないかと思います
ということで、わが家に来てから今日で3288日目を迎え、アイヌ民族や在日コリアンに対する差別発言で、法務当局から人権侵犯認定を受けた自民党の杉田水脈衆院議員に抗議する集会が13日に札幌市で開かれ 約180人が参加したが、実行委員会の木村二三夫共同代表は「杉田議員や追従する者たちによる誹謗中傷に多くのマイノリティーが傷つけられている。政府与党は危険な言動を野放しにしており、私たちの有権者の責任も重い」と指摘、人権侵犯の被害を申し立てた というニュースを見て感想を述べるモコタロです
「野放し」は岸田首相の得意技だ パー券を巡る裏金作り問題もしかり やる気なし
昨日、NHKホールでNHK交響楽団1月度Aプロ2日目公演を聴きました プログラムは①ビゼー(シチェドリン編):バレエ音楽「カルメン組曲」、②ラヴェル:組曲「マ・メール・ロワ」、③同:バレエ音楽「ラ・ヴァルス」です 指揮はトゥガン・ソヒエフです
トゥガン・ソヒエフは1977年北オセチア共和国(ロシア)のウラジカフカスに生まれ、サンクトペテルブルク音楽院で指揮をイリヤ・ムーシンとユーリ・テミルカーノフに学ぶ。2022年に母国ロシアがウクライナに侵攻したことに心を痛め、ボリショイ劇場音楽監督とトゥールーズ・キャピトル劇場管弦楽団音楽監督を辞任しました。しかし、実力者ソヒエフはその後も世界中から引く手あまたで、N響はじめ世界各国のオーケストラに客演しています
1曲目はビゼー(シチェドリン編):バレエ音楽「カルメン組曲」です この曲はジョルジュ・ビゼー(1838-1875)が1873年から74年にかけて作曲したオペラ「カルメン」をもとに、シチェドリン(1932~)がバレエ用に編曲した弦楽と打楽器による作品です 第1曲「導入」、第2曲「踊り」、第3曲「第1間奏曲」、第4曲「衛兵の交代」、第5曲「カルメンの登場とハバネラ」、第6曲「情景」、第7曲「第2間奏曲」、第8曲「ボレロ」、第9曲「闘牛士」、第10曲「闘牛士とカルメン」、第11曲「アダージョ」、第12曲「占い」、第13曲「終曲」の全13曲から成ります
弦楽器は16型で、左から第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、チェロ、ヴィオラ、その後ろにコントラバスといういつものN響の並びですが、この曲は管楽器が入らない代わりに打楽器が5名加わり、弦楽器の後方に各自が距離を取ってスタンバイします コンマスは伊藤亮太郎です
ソヒエフの指揮で演奏に入りますが、全体的に弦楽器の洗練された美しい演奏と、打楽器の多彩な音色を醸し出した演奏が印象的でした
弦楽器で特に印象に残ったのは第7曲「第2間奏曲」です この曲はもともとフルート独奏のための名曲ですが、チェロとコントラバスのピッツィカートに乗せてヴィオラが美しいアンサンブルを奏でました ヴィオラの演奏では第3曲「第1間奏曲」における「運命の動機」の渾身の演奏も、ヴィオラの音色の美しさを改めて認識させる素晴らしい演奏でした また、第11曲「アダージョ」と第12曲「占い」における弦楽アンサンブルの美しさは特筆に値します
最高に楽しかったのは第8曲「ボレロ」です この曲はビゼーの劇音楽「アルルの女」の「ファランドール」の編曲です 打楽器が大活躍しリズム中心の軽快な演奏を展開しました また第10曲「闘牛士とカルメン」ではヴィブラフォンの包容力のある音色が美しく響きました
プログラム後半の1曲目はラヴェル:組曲「マ・メール・ロワ」です この曲はモーリス・ラヴェル(1875-1937)が友人のゴデブスキ夫妻の2人の子どものために1908年から10年にかけて作曲したピアノ連弾曲です ラヴェルは1911年にこの作品を管弦版に編曲しました 第1曲「眠りの森の美女のパヴァーヌ」、第2曲「一寸法師」、第3曲「パゴダの女王レドロネット」、第4曲「美女と野獣の対話」、第5曲「妖精の園」の5曲から成ります
この曲から管楽器が加わり、ハープが2台、打楽器も6人態勢となります
ソヒエフの指揮で演奏に入りますが、彼はタクトを使用せず、両手で音を紡ぎ出すように指揮をします 全体的に木管楽器群が繊細にして美しい演奏を繰り広げました 第1曲ではフルートの神田寛明、梶川真歩、クラリネットの伊藤圭の演奏が冴えていました 第2曲ではオーボエの吉村結実、コーラングレの池田昭子の演奏が素晴らしかった また、弦楽アンサンブルが美しく響きました 第3曲ではフルートが、第4曲ではクラリネットが素晴らしい演奏を展開しました 第5曲は「平和で平穏な状態」を音にしたらこういう音楽になるのではないかと思うような静かで慈愛に満ちた音楽です この曲を聴くと、同じような曲想のエルガー「エニグマ変奏曲」の「ニムロッド」を想起します 弦楽セクションも、管楽器群も、打楽器群も、ソヒエフ・マジックにかかったかのように豊かで愛に満ちた演奏を繰り広げました
最後の曲はラヴェル:バレエ音楽「ラ・ヴァルス」です この曲はロシア・バレエ団の主宰者ディアギレフの委嘱により1919年12月から20年4月にかけて作曲、1920年12月12日にパリで初演されました ラヴェルが想定したのは「1855年頃のウィーンの皇帝の宮殿」です
ここで、金管楽器はホルンに加えてトランペット、トロンボーン、テューバが入ります
ソヒエフの指揮により低弦の重心の低い演奏から曲が開始されます この曲では木管群の個人芸に金管楽器の華やかな演奏が加わり、弦楽器の見事なアンサンブルと相まってスケールの大きな演奏が繰り広げられます シンコペーションのリズムによるワルツが耳から離れません ソヒエフはN響の持てる力を全て引き出し、色彩感溢れる圧倒的なフィナーレを飾りました
満場の拍手の中、カーテンコールが繰り返され、ブラボーが飛び交いました つくづくソヒエフはいい指揮者だと思います