▽優秀マニフェスト推進賞<首長部門>
北川正恭 審査委員長、早稲田大学名誉教授、早稲田大学マニフェスト研究所顧問
■鈴木周也(茨城県 行方市長) 1 期目のマニフェストを中心に作成したアンケートを無作為抽出した 3,000 名の市民を 対象に調査実施するとともに「なめがた市民 100 人委員会」を組織し、市政の課題抽出と 改善提案を行った。
2 期目は、5 分野 30 項目の公約を掲げ、着実に実践して行く取り組み として「行方市総合戦略実施計画」「行方市公共施設再編に向けた展開プログラム」「行方市 経営戦略」を策定した。市民を巻き込みながら、着実に自治体の戦略として政策を推進する 姿勢が高く評価できる。
■板倉正直(千葉県 印西市長) 市長選挙のマニフェストにおいて「とことん市民目線」として、①ごみ焼却場政策、②救 急医療政策、③北総線・買い物政策、④子育て・教育政策、⑤地域保全政策に対する刷新を 掲げ当選を果たした。そのなかで、ごみ焼却場の移転計画の白紙撤回を第一として強く市民 に訴えた。
当選後は、移転計画白紙撤回後のスケジュール案を速やかに示し、民意を反映す るための情報公開のもとでごみ焼却場の移転を進めた。市民にとって大きな課題をマニフ ェストに盛り込み、当選後も正面から真摯に取り組んでいる。
■小林常良(神奈川県 厚木市長) これまでのマニフェスト大賞で、第 6 回に優秀賞を、第 9 回に特別賞を受賞している。
今回は、12 年間の取り組みの集大成である。
とくに、3 つのマニフェストの柱である「企業 誘致・地域経済活性化」「日本一を目指した子育て・教育環境」「徹底した行財政改革」を軸 に政策に取り組んできた結果、目に見える形で成果を現わしている。
「かつてないマニフェ スト型行政推進システムを」と決意され、マニフェスト実現に向けた仕組みを政策にビルト インしていることも大きな注目に値する。
■阿部守一(長野県知事) 「県民とコミュニーケーションをはかる有効なツール」としてマニフェストを位置づけ、 前回の選挙に続き、2018 年 8 月の長野県知事選挙でマニフェスト『あべ守一 基本政策集 2018 〜創造的で持続可能な共生社会づくり〜』を掲げ当選した。
マニフェストの PDCA サ イクルを実現するべく、県民にわかりやすい評価軸での自己評価を実施しており、その内容 は 85%に達した。
「地域重視」を掲げ、新しい試みとして県内 10 地域の取組の方向性をそ れぞれ明記したことも、高い評価につながった。
■村岡隆明(宮崎県 えびの市長) 市長マニフェスト進行管理と外部評価の取り組みである。市長が 1 期目及び 2 期目の選 挙で掲げたマニフェストの進捗について、毎年度期首(4 月)・中間(10 月)に市長ヒアリ ング等を通じた進行管理を行っている。
1 期目の最終年度には、外部団体によるマニフェス ト検証会を開催し、2 期目の最終年度には、学識経験者等で構成される「えびの市政策検証 委員会」を市が設置し、内部評価をもとに検証及び外部評価も行った。その内容をすべて市 のホームぺージで公開していることも特筆に値する。 ▽優秀マニフェスト推進賞<議会部門> 北川正恭 審査委員長、早稲田大学名誉教授、早稲田大学マニフェスト研究所顧問
■公明党荒川区議会議員団 過去の 2012 年から、今後の 2022 年まで見通した取り組みである。「あらかわ公明ビジョ ン 100」「あらかわ公明アクション 111」「あらかわ公明ボイス 123」として、区の職員には ない生活者の視点を重視した提言と検証を行っている。
議会での発言が議員個人としての 提案要望になりがちであったところを、団体政策懇談会、部別政策懇談会、ローカル・マニ フェストの作成、区長への要望書提出などを会派として行うことにより問題意識の共有化 を図るなど、体系立てられた活動が賞賛に値する。
■都民ファーストの会東京都議団 注目を集めた 2017 年東京都議会議員選挙で「東京大改革」と称し、議会改革から島しょ 地域振興までの 15 領域で「14 の基本政策と 377 項目の公約」を掲げた。そのなかで、こ れまで 25 年で 1 本しか成立してこなかった議員提案条例の制定を複数掲げ、改選後に「東 京都子どもを受動喫煙から守る条例」を制定する成果につながった。「公約ブラッシュアッ プ研究会」を立ち上げ、マニフェストの進捗状況をホームページで都民目線で視覚的にわか りやすく公開していることも特筆に値する。
■自由民主党横浜市支部連合会、自由民主党横浜市会議員団 議員によるマニフェスト進捗モニタリングと検証大会の開催、新公約作成による「よこは ま自民マニフェストサイクルの確立」である。
マニフェスト大賞では、第 9 回にグランプリ を受賞したが、さらにその取り組みが進化した。2011 年の「8 本の条例マニフェスト」に 続き、2015 年には 24 の政策マニフェストを発表した。中間・最終検証大会を開催したほ か、各議会別に 31 名の質問をマニフェスト項目ごとに洗い出す作業を実施するなど、マニ フェストのマネジメント手腕が光る。
■佐野弘仁(山梨県甲府市議会議員) 政策の統一フォーマット「マニフェスト・スイッチ」を活用して、議員マニフェストの PDCA サイクルを体現している。
「LM 政策サイクル管理計画 進捗表、重点施策管理表」で 年度別に進捗管理を実施し、議会発言のマネジメントを行った。
また、フローを管理表に織 り込んで「LM フォーマット」+「見える化マネジメントフォーマット」+「LM フロー」を 策定した。政策課題を深掘りするとともに活動を細かに可視化し、常に住民と意見交換が出 来る体制を整えるなど、注目に値すべき点が多い。
■林晴信(兵庫県西脇市議会議長) 2017 年の西脇市議会議長選挙にマニフェストを提示して立候補した。
前回の議長選挙で は、議長に就任した後、すぐに議長立候補制度をつくった経緯がある。
マニフェストは、議 長選挙の 1 週間前に全議員に手渡しするとともに、ホームページやブログ、SNS などを通 じ市民に広く告知している。
選挙当日は本会議場で 10 分間スピーチを行い、インターネッ ト中継も行った。市民不在の議長選挙が多いなか、議会だけでなく市民にも広く周知し、議 長に就任後も真摯に取り組む姿が高く評価できる。
▽優秀マニフェスト推進賞<市民部門> 北川正恭 審査委員長、早稲田大学名誉教授、早稲田大学マニフェスト研究所顧問
■議会マイニング(東京都) 議会改革において情報公開は必須であるが、幅広い住民が理解するためには「公開する」 だけでなく「一目でわかる」ようにまとめることが必要である。
議会マイニングは住民と議 会の距離をより身近にする新しい形を開拓したといっても過言ではない。
また町田市議会 議員選挙での活用において、既存の委員会・議員別に議事録をダウンロードできる機能のア シストにもなっている点も魅力となっている。
今後「紙文化」の議会を中心に活用されるこ とを期待し、議会マイニングの広がりに期待したい。
■共創かまくらプロジェクト(神奈川県鎌倉市) 地域福祉・医療に関わる幅広い専門職の有志による市民起点の政策集を作成し、現職市長 に提案(候補者の公約として提案)を行うだけでなく、政策の評価も実施しているという点 を高く評価したい。
専門職が策定の中心に入ることで、現場の視点が豊富に盛り込まれ、市 民ニーズに根ざした政策実現が行われている。さらに、策定・提案しただけでなく、政策評 価委員会を独自で設定し、首長の監視役を担っていることも大きな注目に値する。
■信濃毎日新聞×6 高校(長野県) 地方新聞社が知事選に関してマニフェストを比較する記事を作成し、教育機関と連携し 新聞記事を活用した主権者教育を実施したことを高く評価したい。
昨今、投票率が下降の一 途をたどる地方選において、公約を比較できるようグラフや項目など、独自のまとめ方でわ かりやすく掲載するなど、情報媒体としての機能を再構築する取り組みである。
教員の研究 会とのコラボレーションにより、「政治を遠ざけきた教育」から「生の政治」を扱う教育へ の転換ができ、主権者教育のさらなる進展と若者の政治参加に結びつける要素になってい る。
■Local Democracy Action-KYOTO(LDA-KYOTO)(京都府) 大学生 1000 人以上の声をマニフェスト案にまとめ、知事選の候補者の公約につなげたこ とが大きな特徴である。
大学生に実施した「生活実態アンケート」から統計を出して策定さ れたものであることから、地道かつ草の根の取り組みによって民意の反映が行われたとい うプロセスを評価をしたい。
またアンケートだけでなく、シンポジウムの開催や議会への請 願活動など、実態を可視化し、全世代の問題として広く社会や地域の中で共有している日頃 の活動も特筆すべき点である。
■クラーク記念国際高等学校 熊本上通キャンパス 生徒が自分の「モノサシ(判断基準)」持って投票するべく実施され、かつ市長が教育機 関に出向いて行われた主権者教育の取り組みである。これまで”模擬”選挙であった主権者 教育を”現実”の市長へ提案する目標設定や、市長を招いて意見交換を行うだけでなく、マ ニフェストの進捗状況や熊本市政を学ぶ事前授業を行うプロセスが素晴らしい。
また生徒 自身がまちづくりの仕組みや選挙との関連性を学ぶことにより、主権者としての自身の行 動を振り返るきっかけにもなっている。 ▽優秀成果賞 江藤俊昭 山梨学院大学教授
■茨城県 取手市議会・議会事務局 取手市議会は、開放的な議会を目指している。市内中学生と議会とのコラボ「議会を知り・ 未来を語る」を開催するなど、主権者教育は重要な実績である。
また、取手市議会は、議会改革を女性という切り口から多様な住民が議会活動に参加でき る改革を行っている。
女性議員 7 名による議会改革特別委員会が設置され、これによって 改革が進んだ。議会基本条例や会議規則に即して充実した実践を行っていることは、制定・ 策定だけを目的としている議会への警鐘にもなる。
会議規則等の改正はその成果である(欠 席事由を広げるとともに、長期欠席の場合の報酬減額から出産・育児を対象から外した等)。
国への3つの意見書は今後も地方自治を考える上で重要な活動である。全国の議会改革を 進める方向を示している。
なお、当該議会だけの活動だけではなく、県内外の女性議員との連携も深めている。
改革 を広げるとともに、連携して議会改革を行う実践である。
■長野県 喬木村議会 喬木村議会は、恒常的な夜間休日議会(正確にはそれを主とした運営)を行った(試行)。 1年間の定例会日程を予め作成して、議会モニター、議員、首長等がスケジュールを立て易 い環境整備を行った。
こうした改革は、議会力をアップさせるためのものである。
議会力を ダウンさせる夜間休日議会は本末転倒だと考えており、効率的で十分な審議を前提してい る。
決算認定にあたって事業評価を行い政策提言に繋げることも実践することになってい る。
また、議案の賛否・コメントを常任委員会前に集約し、委員会審議に臨むことは討議を より充実させるものだ。
さらに、「議員の意見集約した資料・議案補足説明資料・議案に対 する質問の回答等資料」を住民に配布したり、議会だよりを議員が議会モニターに配布し意 見交換を行うなど、開かれた議会を実践している。
なお、地方議会が抱える課題について総務省に提言活動を行った。
現場からの提言であり、 現場からの自治の拡大として重要である。
■愛知県 犬山市議会 犬山市議会は、住民と歩む議会の充実により、議員間討議を踏まえた監視・政策提言能力 を高めた。
市民フリースピーチは、市民が議場で発言するだけではなく、発言者が議員と意見交換す る、まさに討議空間となっている。議会報告会をはじめ出前議会は広がっている。
同時に、 議会本体を開かれたものにする参考人制度は広がっているが、市民フリースピーチは、特定 のテーマではなく自由な発言を求めるいわば自由な討議空間である。
発言者は、事前に周到 な準備を行っている。
また、犬山市議会の女性議会は、一回限りの言いぱなしではなく、数カ月間議員と調整を 行いながら女性議員(住民)は、質問を練り上げていく。このプロセスは重要だ。
これらの意見を住民からの政策提言と受け止め、議員間討議を行い首長に政策提言を行 っている。
議会からの政策サイクルが議場で行われている。
開かれた議会を議会力アップに つなげている。
また、「参加すれば、実現できる!」という意識が住民に広がり、住民の議会・行政への 参加を呼び起こすことも目指している。
これらの改革は、いわば実践的な主権者教育にもな っている。
■岡山県 牟佐町内会 鳥獣被害が広がっている。
行政に要望するだけではなく、独自に対策を立て実践している 町内会・自治会も少なくない。
牟佐町内会は、イノシシ等を捕獲するだけではなく、それを 肉に加工し町内会イベント等でジビエ肉料理として消費している。
また、皮革の加工に取り 組んでいる。
子どもや大人向けの料理教室、皮革を利用した製品づくり・レザークラフト教 室なども開催している。行政の協力も得ていると思われるが、猟友会などの協力によって行 っている。
町内会がリードし、捕獲駆除の専門家や皮革製品の専門家と地域住民の協働によって有 害獣による被害を減少させる成果を上げている。
このことは、コミュニティの育成にも役立 っている。
■熊本県 熊本市中央区役所 窓口業務の改革を意識改革につなげるとともに、中央区だけではなく市全体の改革とし て取り上げた。
下からの改革による行政改革と意識改革の推進である。
窓口申請手続きの待ち時間は「時間がかかりすぎる」との苦情が寄せられていた。
この改 善に向けて、現場から改善を行った。
窓口業務に関わる職員自らが考えるよう窓口業務が閉 鎖した後に職員が集まってワークショップを繰り返し、職員自らが設定した目標である。
こ れによって時間短縮という成果が得られた。 こうした成果だけではなく、市役所全体の改革に展開した。
これを震災後第一歩目の市役 所全体の改革の象徴として位置づけられた。
小さな一歩が自治体を改革する大きな一歩と なっている。
職員に広がっている「やらされ感」から脱し「自分事として取組む」ことにな る重要な意識改革・行政改革である。 ▽優秀政策提言賞 藤森克彦 みずほ情報総研/日本福祉大学
■船橋LGBT・性の多様性を考える議員連盟(千葉県船橋市) 「同性パートナーであるがゆえに、大家の理解を得られず、家を借りられない」「同性パ ートナーであるがゆえに、家族とみなされず、病状の説明が受けられない。
手術の同意がで きない」――こうした人権問題について、市に提言し、幅広く市民の理解を得るために、船 橋市議会において超党派の議員連盟が発足した。
具体的な活動としては、LGBT当事者の 方を招いての勉強会、市長と当事者の意見交換会、先進事例の視察・調査、船橋市による人 権ポケットブックの発行や講演会開催などである。
多くのLGBT当事者と意見交換をしながら、問題提起をしている点を高く評価したい。
そして、こうした地道な活動が、住民の人権意識の向上につながっていくことを期待したい。
■佐藤まさたか(東京都東村山市議会議員) 東村山市では、2002 年から中学校給食に弁当併用外注方式を採用した。
これにより、給 食費を納入する口座と連動したプリペイドカードに一定の残額がない場合は、給食を注文 できなくなった。
給食費の未納問題への対策として、多くの自治体から視察を受けた。
しかし佐藤議員は、貧困から弁当を持参できず、給食を注文できない中学生がいる可能性 を考え、実態調査を求めている。
貧困ゆえに昼食がなく、昼食時間に引け目を感じる生徒が たった一人でもいるのであれば、未納問題よりも優先すべき課題と考えている。
この視点が、 とても重要だ。 完全給食を実現した他の自治体の知見などを学びながら、学校給食のあるべき姿につい てさらに議論を深めていくことを期待したい。
■若手議員の会東京(東京都) 地方議会は立法府であるのだから、議員になったら条例作成は当たり前のことである。
し かし実際は、そうなっていない。 そこで、超党派の政策グループ「全国若手市議会議員の会・東京支部」が一石を投じて、議 員立法のための集中プロジェクトを組んだ。
具体的には、ふるさと納税制度を改善するため、 条例の目的や定義を定める作業を行った。その上で、各議員が条例案を地元に持ち帰って、 地元議会での成立を目指している。 条例案の作成作業を通じて、条例を整備する執行部の視点や考え方がよくわかったとい う。
議員活動の一層の活性化につながることを期待したい。
■新潟県 上越市議会 どうしたら一般市民が市議会議員を目指すようになるのか――。市議会議員の立候補者 が少ない現状を変えようと、議長の諮問機関として「市議を目指しやすい環境検討会」が立 ち上がった。検討会では、40 代までの若い市民を集めて、「なぜ若者・女性は市議を目指さ ないのか」「どの阻害要因をなくしたら出馬するか」「市議会に求めることは何か」などをテ ーマに、ホワイトボードミーティング形式で議論をすすめた。そして、その成果として、早 急に取り組むべき課題、検討や研究に付すべき課題などに分けられて、提言がまとめられた。 議員のなり手不足問題について、その本質から考えようとしている点が特徴だ。他の自治 体の参考になる提言を期待したい。
■猪奥美里(奈良県議会議員) 災害が起こると、外国人は一般避難所に避難するが、そこでは言語や文化・宗教に対する 配慮がなされていない。例えば、食事の時刻は日本語のみで案内されている。また、宗教上 の禁止食物に関する配慮もない。 そこで、猪奥議員は、奈良県と市が連携して外国人観光客交流館(猿沢イン)を外国人専 用の避難所とすることを提案した。当初、自治体はこの提案に難色を示したが、最終的には 2017 年 11 月に奈良県と市で協定が結ばれ、上記交流館を福祉避難所として活用すること が決定した。 この提案の背景には、「避難者カード標準化プロジェクト」(第 11 回マニフェスト大賞優 秀提言賞受賞)において避難者カードを調査したことがある。前回の提言が、新たな提言に 結びついた。時宜にあった提言であり、今後、他の自治体の参考になることを期待したい。
■川西市議会会派「明日のかわにし」(兵庫県 川西市) これまでの議会会派の「予算要望」の多くは、財源を無視したお手盛り型であったり、な んとなく思い付いた突発型、事業化するには難しい抽象型などが多かった。仮にこれらの要 望をすべて実現すれば、自治体経営は破たんしてしまう。
そこで、同会派では、行政の予算編成プロセスに対する政策提言として「会派予算提案」 を行った。具体的には、①行政の成果報告書に設定された事業単位で行うこと、②概算金額 を試算し、事業単位で併記すること、③成果の乏しい既存事業には、廃止、見直し、縮小の 提案をすること、④提案する総概算金額は原則マイナスとすること、といったルールを定め て、会派予算提案書を作成した。 「会派予算提案」をブラッシュアップすると共に、その成果を示すことで、全国の自治体 の参考になっていくことを期待したい。
▽優秀コミュニケーション戦略賞 千葉茂明 月刊「ガバナンス」編集長
■Team Sendai(宮城県 仙台市) 東日本大震災で自治体職員が直面したジレンマや工夫などを学び、後世の職員につなげ る自主勉強会。
公的な自治体の記録ではなく、職員が自らの体験を基に発信しているのが特 徴であり貴重。大学との連携や市の事業にも発展している。他の被災自治体の職員にも広が ってほしい取組み。
■法務 de ランチ(福島県 郡山市) 職員の「リーガルセンス」を磨くことを目標に、誰でも参加しやすいようにランチタイム に活動。
とかく法務はとっつきにくいと言われるが、昼食をとりながらリラックスした雰囲 気で活動しており、参加者の6~8割が女性だ。他の法務研究会や市民団体とのコラボも実 現。
「継続こそ力なり」を感じさせる取組み。
■中原恵人(埼玉県𠮷川市長) 「価値ある未来を、共に」を合い言葉に 2015 年3月に市長就任。市長キャラバンやどこ でも市長室、市長とランチミーティングなど市民と多彩なコミュニケーションを実施。
意見 交換から政策提言を行えるシンクタンク設立、市民団体やサークルの活動をサポートする 助成制度の設立、そして市民による情報発信と戦略性・先駆性に富む取組み。
■埼玉県 鶴ヶ島市議会図書委員会 全国的にはほとんど活用されていない議会図書室の改革に意欲的に取り組む。全国の議 会図書室で初めて「まちライブラリー」を設置。
持ち寄った本の置き場所を作り、交流の拠 点とするこの取り組みによって、議会に一度も足を運んだことにない人も訪れるようにな った。
レファレンス講座の実施など議員の一般質問で使える図書室に向けた取り組みも実 施中。
■田中紀子(千葉県木更津市議会議員) 市民やスタッフと協力して「市民目線でつくった木更津市の財政白書」を発行、行財政を チェックする市民力と議員力を育む。その発端は議会で要望や提案した際の執行部側の「金 がない」という一言だった。
グラフやイラストを多用するなど、家計簿感覚で市民に分かり やすい言葉で市の財政を分かりやすく伝えてきた。議員の役割を再認識させる取組み。 ▽優秀シティズンシップ推進賞 西尾真治 三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング
■まちであそん実行委員会(茨城県 境町) 境町では 18 歳の現役大学生が参与に就任し注目されたが、その参与が実行委員長となり、 町をよりよくするアイデアを地元の高校生が出し合うコンテストを開催。
高校生3~4名 でチームをつくり、大学生のメンターが付くことで、検討の質を高めることに成功している。
メンターとして参加する大学生にもよい成長の機会となろう。
優秀な提案には予算が付け られ、アイデア出しで終わらないことも、緊張感・責任感につながっている。開始から3年 が経過し、いくつかの若者視点の事業が実現し、フィールドワークやプロトタイピングを取 り込むなどプロセスの改善も重ねられている。
さらに多くの高校生を巻き込み、高校生が継 続的にまちづくりに関わる展開を期待したい。
■NPO法人SET(東京都) 陸前高田市広田町において、主に関東圏の大学生が町のためになるアクションを企画・実 行・報告する1週間のプログラムを実施。
震災後の 2013 年に第 1 回を開催し、以来 38 回 の開催を重ね、幅を広げつつ息長く活動していることに驚く。
年間約 200 人の大学生が参 加し、毎週十数名の若者が継続的に訪れることで、町に大きな力をもたらしている。その裏 には、小地区ごとにスタッフチームを置き、町民とのやり取りを記録する冊子を玄関に置く など、町民との丁寧な関係性づくりがある。
参加者の3割弱が運営側のスタッフになるなど、 継続的な活動につながる動きが定着しており、若者の移住にもつながっている。
約8万円の 参加費を設定し、自立的な財政基盤を確立している点も注目に値する。
■NPO法人わかもののまち(静岡県) 子ども・若者を「未熟な市民」から「若い市民」へと転換することを目的として、欧州を 中心に広がる「ユースカウンシル」(若者会議・若者議会)の日本版の開発・普及に取り組 んでいる。
国内の実践者・研究者による検討委員会を設置してハンドブックを作成したり、 スウェーデンの実践者を招いたフォーラムを全国3か所で開催したりするなど、質の高い 活動を精力的に行っている。
新城市や高知市など一部には若者が主体的にまちづくりの一 端を担うものもあるものの、国内の若者参加の取組の多くはごっご遊びや形式的なもので ある、という問題意識は厳しい。
若者政策のあり方そのものを見直し広げていくことを、若 者自身が掘り下げて提起している点に大きな意義がある。
■島根大学行政学ゼミ(島根県 松江市) 島根大学の行政学ゼミの学生が主導し、政治系サークル「ポリレンジャー」のサポートで、 松江西高校の生徒が半年以上かけてまちづくり案(西校マニフェスト)を作成し、松江市議 会議員に発表、意見交換を行った。大学と高校が連携し、市の職員や議員の協力も得るとい う、部門を超えた実践的な主権者教育の協働体制が構築された稀有な事例である。その背景 には、行政学ゼミでは前年度にマニフェストづくりを行っており、ポリレンジャーには西校 との協働経験があった。それらが取組の下地になっており、その発展経緯も特筆すべき点と いえる。参加した高校生からは、まちづくりにおける自己有用感の高まりがみられ、地域で の実践的な主権者教育の有効性も示されている。
■岡山県立新見高等学校(岡山県 新見市) 選挙権年齢の 18 歳への引き下げの動きを受けて、高校における「総合的な学習」の時間 を実践的な主権者教育のプログラムに改革、新見市議会への陳情活動につなげた。
市議会と 十分に調整・協力関係を築いた上で、選挙管理員会や市役所からレクチャーを受け、地域住 民へのインタビューをもとにテーマ案を決め、校内で十分にブラッシュアップして代表の 陳情5件に絞り込んで提出するなど、丁寧な手順でまとめている。
議会側でも趣旨説明とし て発言の機会を与えたり、委員会で慎重な審議をして採決したりするなど、双方が真摯に取 り組んでいる点がすぐれている。
この取組がきっかけとなり、高校生が自ら主体的にまちづ くりに関わることにつながっていくことを期待したい。