不条理を乗り越える: 希望の哲学 (1002;1002) (平凡社新書 1002)
小川 仁志 (著)
《目次》
はじめに
第1章 不条理な新世界
「パンデミック後の世界」と「すばらしい新世界」
…………
第2章 パンデミック狂騒の果てに
不条理な幕開け
なにが残り、なにが戻り、なにが変わるのか?
歴史上の例外
…………
第3章 揺らぐ経済・社会
決断主義と官僚機構の再構築
危機に瀕する民主主義
テイクアウト型リベラリズムへ
…………
第4章 揺れる生き方
不確実性を抱きしめて
自己肯定感を高める
丸いからこそコロコロと転がれる
…………
終 章 不条理と向き合うための笑去主義
不条理を受け入れる
…………
おわりに
参考文献
《概要》
私たちの世界はいま、コロナ禍という不条理に見舞われている。一見、豊かで幸せそうにみえた日本でも、パンデミックによって、格差や不平等、差別など、さまざまな問題があぶり出された。この、変えることのできない不条理な世の中にあって、自己肯定感を喪失せずに、希望を持って生きることはできるのか。
考え、行動し、真理を追究する?闘う哲学者?が、この世のあらゆる不条理を乗り越えるための哲学を示す。
はじめに
第1章 不条理な新世界
「パンデミック後の世界」と「すばらしい新世界」
…………
第2章 パンデミック狂騒の果てに
不条理な幕開け
なにが残り、なにが戻り、なにが変わるのか?
歴史上の例外
…………
第3章 揺らぐ経済・社会
決断主義と官僚機構の再構築
危機に瀕する民主主義
テイクアウト型リベラリズムへ
…………
第4章 揺れる生き方
不確実性を抱きしめて
自己肯定感を高める
丸いからこそコロコロと転がれる
…………
終 章 不条理と向き合うための笑去主義
不条理を受け入れる
…………
おわりに
参考文献
《概要》
私たちの世界はいま、コロナ禍という不条理に見舞われている。一見、豊かで幸せそうにみえた日本でも、パンデミックによって、格差や不平等、差別など、さまざまな問題があぶり出された。この、変えることのできない不条理な世の中にあって、自己肯定感を喪失せずに、希望を持って生きることはできるのか。
考え、行動し、真理を追究する?闘う哲学者?が、この世のあらゆる不条理を乗り越えるための哲学を示す。
著者について
小川 仁志:1970年京都府生まれ。哲学者。山口大学国際総合科学部教授。京都大学法学部を卒業後、93年伊藤忠商事に入社。96年に退社後、4年半のフリーター生活を経て、2001年名古屋市役所入庁。
08年名古屋市立大学大学院博士後期課程修了。博士(人間文化)。米プリンストン大学客員研究員などを経て、現職。著書に『闘うための哲学書』(共著)、『哲学の最新キーワードを読む』(ともに講談社現代新書)、『「道徳」を疑え!』(NHK出版新書)、『公共性主義とは何か』(教育評論社)、『孤独を生き抜く哲学』(河出書房新社)など多数。
『不条理を乗り越える――希望の哲学』(小川仁志著、平凡社新書)は、不条理に満ちた世界をどう生きたらよいかを考察しています。
著者は、死に対する哲学的な姿勢を3つに分けています。
①人は死なないと考える立場。つまり、肉体は滅んでも、魂は死なないと考え、「魂の不死」を主張する。ソクラテス、ニーチェなど。
②死など関係ないとする立場。死のことなど考えても仕方ないと主張する。エピクロス、サルトルなど。
③死は生きるためにあるという立場。死を生のゴールと捉え、死ぬまでは頑張ろうと呼びかける。ハイデガー、シェリー・ケーガンなど。
私自身はエピクロスの考え方を踏まえ、ハイデガーの勧めに共感しています。
著者は、不条理とどう向き合うべきかを、真正面から考察しています。
「いつの時代も、人間の社会には不条理が存在する。人は、これでもか、これでもか、というところまで突き落とされる。それでも、生きなければならないのが人生なのだ。この世は不条理に満ち溢れている。不条理とは、道理に合わないことである。死、戦争、そしてパンデミックなど。いずれも運命的なものである。しかも、不可抗力を指すことが多い」。
哲学的には、これまで3つの立場が提起されてきたと、著者は言います。
①超然として受け入れる。
②徹底的に反抗する。
③前向きに乗り越える。
著者は、第4の態度として、不条理を笑い飛ばすという笑去主義を提唱しています。「これこそ、不条理に対する新たな達観、新たな前向きの態度を表明するものではないだろうか。
・・・私のいう笑い飛ばす態度は、『不条理のなかの正気』といってもいい。決して狂気じみて笑うというのではない。その反対で、本質を見透かしたからこそ笑い飛ばすことができるのだ。・・・笑い飛ばすことで、不条理を消し去ってしまうのだ。
・・・つまり不条理とは、どうしようもない悲しいことであると同時に、もうどうしようもないからこそ、滑稽な状態でもあるということだ。
・・どうしようもない、滑稽なことなのだから、怒るのではなくて笑い飛ばす。しかも本気で笑い飛ばす。そうすると、少なくともこっちは堂々と生きていくことができるだろう」。
小川仁志は敬愛する哲学者であるが、この笑去主義については、正直に言えば、いささか説得力に欠けると、私は考えます。
小川仁志は敬愛する哲学者であるが、この笑去主義については、正直に言えば、いささか説得力に欠けると、私は考えます。
不条理と理不尽は違う。理不尽とは誰かによって引き起こされることで、理が尽くされていないことを意味するため、まだなんとかなる余地がある。しかし不条理は、最初から理屈を超えた状況で、私たちは理屈以外の何かでそれを乗り越えるしか方法はない。コロナ禍により、格差や不平等、さまざまな問題が表出した。変えることのできない不条理の中で、どうやって生きていえばいいのかを哲学的に考察したのが本書だ。
哲学的には、不条理には3つの立場が提起できる。
1)超然と受け入れる シューペンハウアーのペシミズム、キルケゴールの不条理哲学
2)徹底的に反抗する カミュの反抗こそが不条理を乗り越える実存主義
3)前向きの乗り越える 誰かのせいにするのではなく、他者と連帯し乗り越える
そして結論として、「リア王」のセリフ、「どん底に落ちれば、笑いが蘇る」を不条理に対する新たな達観だとしている。小川仁志さんはこれを「笑去主義」とし、第4の選択だとしている。つまり、不条理とは、どうしようもない悲しいことであると同時に、もうどうしようもないからこそ、滑稽な状態なんだと達観することで乗り越えれるとしている。そして、リア王のごとく達観し、大いに笑おうではないか。どん底の先には希望しかないのだから、と締めくくっている。
本書は、哲学者の名前と解説を列挙し、哲学的に考察しているように見せているが、結論は人間が生きるために、昔から身につけていた知恵を披露したとも言える。人が楽天的であるためは、一度、奈落の底に落ちてみることが必要だと表現する人もいる。要するに、助かりたかったら底まで沈めということだ。
ここでは、パンデミックとして不条理を語っているが、日本における一般の中小零細企業のほとんどは、コロナ禍で生き延びるために必要だったゼロゼロ融資42兆円の反動が待ち構えている。これぞ誰のせいにもできない不条理だ。助かりたければ、再起したければ、リア王のように、どん底に落ちたとしても、その先には希望しかないと達観することが必要だ。
哲学的には、不条理には3つの立場が提起できる。
1)超然と受け入れる シューペンハウアーのペシミズム、キルケゴールの不条理哲学
2)徹底的に反抗する カミュの反抗こそが不条理を乗り越える実存主義
3)前向きの乗り越える 誰かのせいにするのではなく、他者と連帯し乗り越える
そして結論として、「リア王」のセリフ、「どん底に落ちれば、笑いが蘇る」を不条理に対する新たな達観だとしている。小川仁志さんはこれを「笑去主義」とし、第4の選択だとしている。つまり、不条理とは、どうしようもない悲しいことであると同時に、もうどうしようもないからこそ、滑稽な状態なんだと達観することで乗り越えれるとしている。そして、リア王のごとく達観し、大いに笑おうではないか。どん底の先には希望しかないのだから、と締めくくっている。
本書は、哲学者の名前と解説を列挙し、哲学的に考察しているように見せているが、結論は人間が生きるために、昔から身につけていた知恵を披露したとも言える。人が楽天的であるためは、一度、奈落の底に落ちてみることが必要だと表現する人もいる。要するに、助かりたかったら底まで沈めということだ。
ここでは、パンデミックとして不条理を語っているが、日本における一般の中小零細企業のほとんどは、コロナ禍で生き延びるために必要だったゼロゼロ融資42兆円の反動が待ち構えている。これぞ誰のせいにもできない不条理だ。助かりたければ、再起したければ、リア王のように、どん底に落ちたとしても、その先には希望しかないと達観することが必要だ。