アムンゼンとスコット

2024年02月13日 11時05分07秒 | その気になる言葉
 

出版社からのコメント

人類未踏の地が極点一帯を残すのみとなった20世紀初頭。南極点到達に向けて、ノルウェーのアムンセン隊とイギリスのスコット隊が出発した。
敗れた側が帰途に全員遭難死するという悲劇的結末を迎えた史上最大のレースは、なぜそうなったのか。勝った側と負けた側を同時進行的に追う。(解説は山口周氏)
 
本多 勝一

信州(長野県)伊那谷出身。京都大学卒。『朝日新聞』記者、同社編集委員を経て、『週刊金曜日』編集委員(「BOOK著者紹介情報」より:本データは『本多勝一 逝き去りし人々への想い』(ISBN-10:4062164035)が刊行された当時に掲載されていたものです)

 「ぼくらにはわかったんだ。強い意志こそ、目的達成には不可欠だって」

1909年4月、米国の探検家ロバート・ピアリーが北極点に到達した。

先を越されたことに衝撃を受けながらも、アムンゼンは、予定通りフラム号に乗って出港した。

目的は北極点ではなく、南極点だった。

「悲観したってなんにもならないよ。そん弱気じゃ、この世で何もできないよ」

「完全な準備のあるところに常に勝利がある。人はこれを<幸運>という。不十分な準備しかないところに必ず失敗がある。これが<不運>といわれるものである」

56年の生涯を駆け抜けた彼の言葉は、未来を照らす羅針盤として不屈の輝きを放ち続ける。

ナンセンのフラム号のフラムとは「前進」の意味だ。

ナンセンのフラム号遠征Nansen's Fram expedition)は、1893年から1896年に、ノルウェー探検家フリチョフ・ナンセンが、北極海の東から西に向かう自然の潮流を利用して、地理上の北極点に到達しようとした試みである。

他の極圏探検家達からは多くの否定的見解が述べられていたが、ナンセンは、その遠征船フラム号で北極海東部のノヴォシビルスク諸島に向かい、叢氷の中に船を凍結させ、そのまま漂流して北極点に到達するのを待った。漂流の緩りとした速度と不安定な性格に耐えられず、18か月後にナンセンと選ばれた隊員であるヤルマル・ヨハンセン英語版が船を降り、犬橇のチームと共に北極点を目指した。

結局北極点には達しなかったが、それまでの最北端である北緯86度13.6分の記録を作り、その後2人は長期間氷と海を渡って、ゼムリャフランツァヨシファに無事帰還した。一方フラム号は西への漂流を続け、最終的には北大西洋に出てきた。

この遠征のアイディアは、アメリカの船USSジャネット号が1881年にシベリアの北海岸沖で沈没し、3年後にグリーンランド南西海岸沖で見つかったことから得られた。

この難破船は明らかに北極海を渡って来ており、北極点そのものを通過した可能性があった。このことや、グリーンランド海岸で回収したほかのゴミから、気象学者のヘンリク・モーン英語版は極点を漂流する学説を考えだし、それがナンセンをして、特別に設計した船ならば、叢氷の中に閉じ込められたまま難破船ジャネット号と同じ経路を辿り、北極点の近くに達することができると考えるに至った。

ナンセンは丸い船腹など長期間氷の圧力に耐えられるようにデザインした船の建造を監督した。

この船は長く氷に閉じ込められてもほとんど脅威を受けず、3年後には無傷で戻って来た。この期間に行われた科学的観測によって海洋学の新しい分野に大いに貢献し、その後はナンセンの科学的研究の重要課題になった。

フラム号の漂流とナンセンの橇の旅によって、ユーラシア大陸と北極点の間には注目するような陸地がないことが証明され、北極点近くの領域は氷に覆われた深い海であることが確認された。ナンセンはこの遠征後に探検から身を引いたが、ヨハンセンと共に開発した旅や生存のための手段は、その後の30年間における北極や南極での遠征全てに影響を与えた。

Head and shoulders of a young, fair-haired man with a blond moustache, looking to the right. He is wearing a jacket buttoned to the neck.
フリチョフ・ナンセン
「なさねばならぬ事柄をなすべき道は。常にある。ひいたり、それたりする一切の道は結局とざされている。いまは唯だ一つの道しかない、それが前進だ、おそらく試練と苦難とを通しての前進であろう、けれども前進だ」

ナンセンからフラム号を譲り受けたのがアムンゼンである。

 
古生物学の観点から皇帝・アデリーペンギンの生態を調べるのが好きで、「世界最悪の旅」という初のペンギンの冬季コロニーを調査した本に出合いました。
元々チェリーガラートは小説家ではないので文書構成がぎこちなく、更に翻訳も評判が悪く読みにくい本となってます。
それを補完したのが本書と言えるでしょう。
両書を読むと白瀬隊の評価が英国とノルウェーで違う事が分かります。
 
 

南極点到達を目指したノルウェーとイギリスの探検隊の物語。

二人のエピソードは有名だと思うが、探検の準備段階から実際の困難、両隊の生死を分けた点などが、対比されて書かれており、大変刺激的だった。

単純な冒険譚、読み物としても面白くおすすめできる。

記述の中で両者がちょくちょく入れ替わるので、現在はどちらの話なのかよく理解して読み進める必要がある。また、筆者の主観と客観的事実が、別れているようで別れていないので、その点もよくよく注意する必要があるかもしれない。

いずれにしても面白い本だった。
 

人類初の南極点到達に同時期に挑戦した「アムンセン」と「スコット」両隊の経緯を比較しながら解説していくドキュメンタリーで、両者の書籍は数あるが、それを比較して1冊にまとめたというところに価値がある。

本書では敗者であるスコット隊に対してやや辛辣な評価が目立つのではあるのだが、犬ソリでの移動をしていたアムンセン隊に対して、遅れは取ったもののほぼ人力で約3000キロを走破し、南極点への到達を達成したスコット隊の恐るべき精神力と身体能力に関しては畏敬の念を抱かずにはいられない。

ドキュメンタリーではあるのだが、客観的な事実と主観的な意見の感想の区別が曖昧になっており、しかもその主観というのが「彼はジェントル階級ではないから~」とか「日本の官僚が~」というような、階級闘争的なバイアスが無意味に強い内容なのは、他人の褌で相撲を取っているような見苦しさはある。
 
 
リーダーとしての振る舞い、判断が異なる2人の話がとても勉強になりました。
刺激的でまた読みたくなる本です。
 
 

ノルウェイのアムンセンと英国のスコットは同時期に人類未踏の南極点到達を争い、一方は成功し喜びとともに帰還したが、他方は敗れた上、帰途全員が死亡する。
この史上最大の冒険レースに参加した二つの探検隊の行動を同時進行形式で比較検証することで、著者は何故スコットが失敗しアムンセンが成功したかを解明しようとする。

雪原を快走するアムンセンの犬橇。悪天候で苦闘するスコット。
馬の転落、動力橇の故障、燃料蒸発、怪我、壊血病。デポまで僅か20キロに迫りながら、遂に倒れたスコット隊が、最後まで放棄しなかった重い岩石標本や、遺稿となった日記の記述は、彼らの義務感、闘志を示すものとして今も讃えられている。
アムンセンは幸運であり、スコット隊は実に不運であった。
しかし経過をたどって読み進むうちに、運命論だけでは片付けられないものがあることに我々は気付く。

西堀栄三郎氏の「二つのリーダーシップ」と題する巻末の解説には「極点への情熱と心構え、隊の運営方法の差。
アムンセンは成功するべくして成功し、スコットは敗れるべくして敗れた」とあります。
勝敗を分けたリーダーの資質と隊の運営方法の違いについての西堀流分析はここでは紹介しませんが、記述された両隊の行動を順を追って、考えながら辿れば、最後の「解説」が素直にわかる。我々の明日への指針としても読める好著です。
 
山口周さんの「読書を仕事に繋げる技術」の中で紹介されていたため読んでみました。リーダーシップを学ぶ上での必読本ということで。
結果どうだったかというとすごく勉強になりました。
リーダーって周りの人より優れてないといけない?けどそれってすごく難しくない?だって上には上がいるし、みんなそれぞれ頑張っているし個性もあるし。と思っていましたが、この本を読んで分かった気がしました。コレならできると。努力でどうにかできることならやってみる価値あります。
それに一つのノンフィクションとしても非常に面白い本でした。オススメです!
 
 
南極点初到達を競い合ったアムンセンとスコット。
スコットに関してはAチェリー・ガラード「世界最悪の旅」,シュテファン・ツヴァイク「南極探検の闘い」等,悲運の人として取り上げられる事が多いがアムンセンに関しては,殆ど触れられていない。
本書ではアムンセンの生い立ち,探検家を志した動機,探検に当たっての用意周到な準備等々を詳細に解説し,彼が生還した理由を結論して行く。
他方スコット隊が全滅した理由に関しても解説し,悲運の幾許かは彼の浅慮に基づく判断が招いたと結論する。
とは言えスコットの最後まで任務を果たそうとする努力,隊員達の献身的努力を軽んじるものでは決してなく,スコット隊の最期の件の記述には目頭が熱くなる。

本多勝一氏は非常に左寄りで思想的には共感出来ない向きも多いだろうが,同時に氏は冒険に関して一家言があり,思想と関係なく読み応えがあると思う。

本書は1986年に初めて刊行され2021年に文庫化された。
Amazonの本カテゴリで本多勝一で検索すると"日本語の作文技術"と本書がヒットして,初めて文庫化を知った次第である。
思想的に偏向した本は絶版となり,こうした本が生き残る事に隔世の感を覚える。
 

スコット隊の悲劇、アムンセンの成功を描いただけではなく、それぞれのパーソナリテイをも描き切り、かつ従来あまり触れられなかったスコット隊の「階級意識」の欠点までも冷静に分析した本書は、本多勝一氏の最高傑作ではないかとすら思う。
本多氏の政治的意見に反発を感じる人(私も実はそうだ)も、この本の魅力には取りつかれるはずだ。
そして、アムンセンの見事な探検者としての能力、ち密な計画性への評価とともに、アムンセンが最後には全く売名しか意識しないで遭難した探検家を助けるために出動して行方不明になるラストは、彼のヒューマニズムを感じさせ深い読後感を残す。
スコット隊の悲劇に隠れて時として印象が薄れるアムンセンの豊かな人間性を知るためにも最良の一冊。

本多氏はスコット隊には確かに厳しく問題点を指摘しているが、もちろん、スコットの精神力、最後までユーモアを忘れぬウイルソンの人格など、隊員たちの人間性には深い敬意を払っている。
特に、あまり触れられないエバンズ隊員の存在(彼がスコット隊の中で下位の階級におり、それゆえの苦悩があったはずだが、何ら不満も見せず最後まで頑張りぬいたこと)についての記述はなるほどと思わせる。
このあたりは社会派記者である本多氏ならではの鋭い視点だろう。
そして、スコットが自らの妻あての遺書に「わが未亡人へ」と書きつけるところはやはり重い感動を呼ぶし、先に亡くなった隊員たちへの家族への手紙は、隊長としての責任感と、隊員への深い感謝の念があふれている。
誰しも、失敗したとき、希望を失ったときにその人の人間性が表れるとするならば、これは死や破滅に対し、人間がどうそれを受け入れるべきかの偉大な精神の記録ともいえるだろう。