【主張】安保理での拒否権 常任理事国の説明は当然の責任
ウクライナに対するロシアの攻撃は、武力の行使や武力による威嚇を禁じた国連憲章2条4項に違反する侵略であると、日本を含む大多数の国が断定している。ウクライナに侵攻した経緯に関するロシアの説明も“言い掛かり”に近い。
例えば、ロシアは、国連安全保障理事会(安保理)への報告で、ウクライナに対する攻撃を国連憲章51条に基づく集団的自衛権の発動によるものと説明している。この場合、同2条4項の違反にならないが、同51条で明記されている「武力攻撃」がなければ、集団的自衛権を発動できない。ところが、ロシアの報告には、ウクライナのどの行為が武力攻撃に当たるのかの説明が一切ない。こういう報告は異例である。
このようなロシアの主張が許されるわけがない。それ故、安保理は、ロシアに軍事行動の即刻停止を求める決議を採択しようとしてきた。しかし、ロシアは拒否権を持つ安保理の常任理事国であるため、決議を採択できずにいる。国連機関の中で唯一、全ての加盟国を法的に拘束できる権限を有する安保理は、機能不全に陥っている。
こうした状況を打開すべく、国連総会(総会)が先月26日、拒否権を発動した常任理事国に説明を求める決議を採択したことに注目したい。常任理事国の米国、英国、フランスに加え、日本など83カ国が決議の共同提案国となった。決議は、▽拒否権発動の日から10日以内に総会を招集▽安保理は拒否権が発動された審議に関する特別報告書を総会での議論が始まる72時間前に提出▽任意だが、拒否権発動国に総会での説明――を要請している。
拒否権発動国が総会で説明を行うかどうかは不明だが、議論の機会が確保されることは重要だ。国連憲章24条の規定の通り、安保理は全ての加盟国を代表して、国際の平和と安全を維持する責任を負っている。常任理事国による拒否権の乱用は、その責任の妨げになり得るからこそ、全ての加盟国が集う総会で議論されるのは当然のことだ。
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外交・安全保障 第13回:集団安全保障体制・国連の役割と期待
ウクライナ侵攻以降の国連改革論——拒否権の制限
ロシアによるウクライナ侵攻を契機に、国連常任理事国の拒否権の在り方への議論に注目が集まっている。紛争当事者が国連、ひいては国際社会で強い発言力をもつことが、改めて問題提起された格好だ。
外交安全保障問題の現状と先行きを解説するシリーズ13回目は、国連の拒否権という切り口で集団安全保障と国連改革の必要性について考察する。
外交安全保障問題の現状と先行きを解説するシリーズ13回目は、国連の拒否権という切り口で集団安全保障と国連改革の必要性について考察する。
集団安全保障体制と安全保障理事会
集団安全保障とは、多数の国家が条約によって戦争その他の武力行使を相互に禁止し違反国に対しては、残りの国が一致協力して集団措置をとることによって成り立つ※1。
第一次世界大戦後の国際連盟が、大国の紛争においては機能しなかった反省を踏まえ、第二次世界大戦後に集団安全保障機構として国際連合(以下「国連」)が設立された。
国連での決議は多数決制を基本とするが、かねてより、安全保障理事会常任理事国に付与された拒否権が、国連に期待される機能※2の阻害要因となっているとの指摘がなされている※3。
こうした中、常任理事国であるロシアによるウクライナ侵攻以降、これらの議論にあらためて注目が集まっている。
安全保障理事会は国連憲章に基づき、「国際の平和と安全」に主要な責任を持つこと※4、「平和に対する破壊または侵略行為の存在」を認定すること※5、必要な措置※6を決定することの権限を有しており、安保理の決定は各国を拘束する※7。国際の平和の維持には、強大な権限を有する安保理の迅速・適切な意思決定や行動が不可欠と言える。
しかし、拒否権はしばしば安保理の意思決定や実行を妨げていると評価される。
しかし、拒否権はしばしば安保理の意思決定や実行を妨げていると評価される。
他方、拒否権は国連の設立過程で大国の参画を促したり、大国の脱退や暴走を防いだりする安全弁的な機能を有し、あらゆる陣営の大国が参画する場を構築するのには不可欠なものであったとの評価もある。
拒否権の抱える課題
東西陣営対立の構図から拒否権が濫用されていた冷戦期と比べ、1991年以降、拒否権行使の頻度は減少している。また安全保障理事会が国家間紛争だけでなく、内戦やテロなど対処する問題の拡大を反映し、安保理決議の採択数は急増している(図1)。
図1 常任理事国の拒否権の発動回数と安保理決議の採択数
特定の事態において拒否権が発動されることで迅速な措置をとることができない、あるいはそもそも事態を脅威として認定することができないなど、制約的な状況が生じることもある。
拒否権が発動されることで必要な措置がとられなくなることは安保理の実行力をそぐこととなる。
また実際に行使されない場合でも、拒否権の行使が示唆・予見されることで本来議論すべき重要な議題が提案されづらくなる萎縮的効果もあると言われている※8。
拒否権は、特に紛争当事国が常任理事国の政治的な利害関係国である場合に発動されやすい(図2)。
拒否権は、特に紛争当事国が常任理事国の政治的な利害関係国である場合に発動されやすい(図2)。
加えて、決議案の内容だけでなく、大国同士の政治情勢などを反映して発動されることで不当に事態の対処が困難となる恐れもある。
実際に拒否権の行使が問題視されている事案としてシリア内戦やパレスチナ問題が挙げられる。
シリア内戦では1,000万人以上の国内外避難民※9と30万人以上の民間人死者※10が発生しているが、安保理は化学兵器使用の監視や人道的支援などの限られた措置しか行えていない。
シリア政権を支持するロシアが人道的支援に関する決議も含めて度々拒否権を発動していることが原因の一つと考えられており※11、国際社会から強い非難を受けている。
パレスチナ問題では、イスラエルを支持するアメリカが多数拒否権を発動している。
1997年に第10回特別緊急総会 ※12「パレスチナ問題」が開かれたが、現在でも閉会されておらず、問題解決の困難さを示している※13。
図2 冷戦以降の拒否権の発動回数と主な内容
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