戦後70年:証言

2015年08月10日 13時11分23秒 | 社会・文化・政治・経済
「反骨精神の頑張り必要」 (これからの世界)
稲盛和夫氏 /京セラ名誉会長

日経新聞 電子版 2015年8月9日 配信


 ――戦後70年の日本の歩みをどう総括しますか。
 「戦争直後は食糧も十分ではなく、産業も壊滅状態だった。そんな逆境を乗り越えようと、日本人全員が懸命に努力した。焼け跡の中からソニーやホンダのようなベンチャー企業が彗星(すいせい)のごとく現れ、それにつられるような形で日本の産業界もたいへんに活性化していった」
「その結果、到達した頂が1990年前後のバブルの時代であり、頂に達した後は停滞した。これは自然の成り行きのようなものかもしれない。豊かになると安楽をむさぼるのは人間の常。日本も例外ではなく、今に至る長い停滞の時代が始まった。全般的な豊かさは今も維持しているが、かつてのようなダイナミズムを失った」
■勇気を持って大同団結を
 ――停滞から抜け出すカギは何でしょう。
 「世界中から強い企業が次から次に現れるなかで、1つの市場に多くの企業が群雄割拠していたのでは競争に勝てない。同じ業種で大同団結し世界に通用するだけの力をつけるべきで、場合によっては合併のような『小異を捨てて大同につく』という動きがもっと進んでもいいのではないか。経営者は『一国一城のあるじ』であることに満足せず、勇気をもって決断してほしい」
 「社員たちの力を一点に結集できるかどうかも大切だ。私が会長として取り組んだ日本航空の再建がうまくいったのも、何万人もの社員の気持ちが同じ方向にそろったことが大きかった。官僚的なピラミッド型の大企業組織の中で社員の心を一つにまとめるのはなかなか難しいが、優れたリーダーが登場すれば事態は変わる。年功序列などの慣行にとらわれず、社内を見渡せば、そんな人材がどこかにいるはずだ」
 ――日本企業が総じて足踏みする中で、京セラをはじめとする京都企業は元気です。

いなもり・かずお 1955年鹿児島大工卒。59年に京都セラミック(現京セラ)、84年には第二電電(旧DDI)を設立。2005年から現職。「盛和塾」で経営者指導に力を注ぐ。83歳
 「お隣の大阪と京都を比べると、顕著な違いは大阪の企業が本社を東京に移したがるのに比べて、京都企業は京都から動こうとしないことだ。政府機関や情報の集まる東京のほうが何かと便利なことも多いが、京都の企業や経営者はあえて背を向け、『我が道を行く』という気概でやってきた。それがユニークな技術や製品、サービスにつながっていると思う」
 「今から30年前に旧電電公社(現NTT)の独占だった通信市場が開放された時、私は第二電電という会社をつくって長距離電話市場に参入した。それも私が東京に住んでいなくて、京都の中堅企業の経営者であって、世間知らずだったので、恐れを知らずに、巨大な電電公社を向こうに回して一旗揚げようと頑張ることができた。やはり地方に拠点があって、外様として頑張る企業が必要だと思う」
 「タクシーの規制に挑戦して、業界に新風を吹き込んだエムケイも京都企業であり、やはり反骨精神を感じる。ちなみに同社の運転手さんはサービスが非常によく、京セラで使うタクシーはすべてエムケイさんにお願いしている」
 ――東京の大企業のトップは会長などになると財界活動をする人が多いのですが、稲盛さんは。

「日本は専守防衛に徹するべきだ」と語る稲盛氏
 「私は実はこれまで一度も東京・大手町にある経団連のビルに行ったことがない。やはり経営者であれば会社の仕事を一生懸命やるのが大切ではないか」
 ――70年の節目を迎え、歴史や安全保障をめぐる議論も盛んです。
 「私が終戦を迎えたのは中2の時で、住んでいた鹿児島市は連日の機銃掃射で文字通り焦土と化した。通っていた中学校も終戦の直前に焼け落ちた。戦争の悲惨さを身をもって知る人間として、私たち日本人は『耐える勇気』を持たないといけないと思う」
 「日本の守りをどうするか喫緊の課題だが、やはり専守防衛に徹すべきだと思う。専守防衛に徹して、平和を愛する日本民族に牙をむく国はそうはないだろう。最近の安保法制の議論などを聞いていると、『耐える勇気』よりも『一歩前に踏み出す勇気』のほうがまさっている感じがして、先行きを危惧している」
 ――世界において日本の果たすべき役割は。
 「親切心やおもてなしの気持ちなど日本人が昔から持つ優しい心根を大事にしたい。今後日本経済がどんどん強くなっていくという状況ではないが、日本人の『美しい心』が世界に伝われば、それが多くの国や人々を魅了すると思う」
■「利他の心で経営を」
 ――今後の企業経営はどうあるべきでしょう。
 「これまで資本主義は欲望をエンジンとして発展してきたが、それが行き過ぎるとリーマン・ショックのように欲の塊が経済破綻につながるということにもなる。自分を横に置いて、他人に尽くすという『利他の心』で生きていく転換点がいまこそ必要だと思う」
 「こうした話をすると日本だけでなく、海外でも大勢の人が熱心に耳を傾けてくれて、『利他の経営』の理念が急速に広がっている。英オックスフォード大やフランス商工会議所などの招きで現地で講演したこともある。周りのものを慈しみ愛する心で経営することが非常に大切だと思う」
(聞き手は編集委員 西條都夫)

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