上に上がるようになってきている。
「ホラほら見て」と恵子は自分がいかに右手を使えるようになってきたかを私に見せびらかそうとする。
これまで、ごはんを食べる時に右手にお箸を持ってはいてもまだそれが自由に使えるわけではないし、第一、右の肩甲骨の動きが麻痺によって固まっていて右腕そのものを上に上げられないのでいつも顔の方がごはんを迎えに行っていた。
それが少しずつ顔をそれほど動かさなくても右手の方を顔に近づけられるようになってきたのだ。
今朝も朝ごはんのヨーグルトを食べている時のこと。
「リンゴの一切れとバナナの一切れの重さが違うよ。リンゴの方が重いのでちょっと大変」。
ヨーグルトなので持っているのは、当然お箸ではなくスプーン。
生のリンゴとバナナをかなり小さめに切って(それぞれ1cm~2cm角程度)ヨーグルトの中に入れていたのだが、そんな小さな塊でも重さが微妙に違うのがいつもより繊細に右手には感じられるのだという。
「それって、麻痺して筋力がないからほんの少しの重さが負担になるから重さの違いがわかるんだよね。だったら、いずれちゃんと麻痺が消えたらその微妙な感覚ってなくなっちゃうかもね」と私。
「そうかも。今だけの貴重な感覚かも」と言って恵子はまたスプーンでヨーグルトをすくい始めた。
家に戻ってからもリハビリプログラムはきっちりと作って毎日「マッサージ-エクササイズ-歩行訓練」などを行っている。
この訓練、ほとんど毎日の楽器の練習と同じような感覚だ。
毎日きちんと機械的にこなさなければいけない練習と創造的な練習の組み合わせを楽器ではやるけれどもリハビリもまったく同じ。
私が楽器を練習する時最も気をつけているのは、力を抜いてリラックスしながら重力に逆らって楽器の上で指を動かすこと。
地球上で生物が身体を動かすことはすべて「重力に逆らう」行為。
なので、リハビリ練習でもこの「力を抜く」というのはけっこう大事なポイントだ。
恵子の歩き方を見ているとすぐに肩に力が入っているのがわかる。特に右手は麻痺した状態なので真っすぐ下にダランとおろすことが難しい。
結果、右足と左足のバランスが崩れて「きれいな歩き方」にはなっていかない。
まだ退院したばかりなのだからそこまで…という人もいるけれど、何事も基礎の部分でしっかりした動きを覚えないとその動きから抜け出すことは先に行けば行くほど難しくなってくる。
こんなことを楽器でイヤというほど体験しているので、恵子のリハビリもできるだけ正しいやり方で行っていった方が最終的な「結果」に大きな差が出て来ると思って恵子にもそう言ってダメを出している。
どうせ治すならキレイに治そうがこれまでの入院生活の二人の合い言葉だったのだからこれからもその方向はブレないで行きたいと思っている。
「ホラほら見て」と恵子は自分がいかに右手を使えるようになってきたかを私に見せびらかそうとする。
これまで、ごはんを食べる時に右手にお箸を持ってはいてもまだそれが自由に使えるわけではないし、第一、右の肩甲骨の動きが麻痺によって固まっていて右腕そのものを上に上げられないのでいつも顔の方がごはんを迎えに行っていた。
それが少しずつ顔をそれほど動かさなくても右手の方を顔に近づけられるようになってきたのだ。
今朝も朝ごはんのヨーグルトを食べている時のこと。
「リンゴの一切れとバナナの一切れの重さが違うよ。リンゴの方が重いのでちょっと大変」。
ヨーグルトなので持っているのは、当然お箸ではなくスプーン。
生のリンゴとバナナをかなり小さめに切って(それぞれ1cm~2cm角程度)ヨーグルトの中に入れていたのだが、そんな小さな塊でも重さが微妙に違うのがいつもより繊細に右手には感じられるのだという。
「それって、麻痺して筋力がないからほんの少しの重さが負担になるから重さの違いがわかるんだよね。だったら、いずれちゃんと麻痺が消えたらその微妙な感覚ってなくなっちゃうかもね」と私。
「そうかも。今だけの貴重な感覚かも」と言って恵子はまたスプーンでヨーグルトをすくい始めた。
家に戻ってからもリハビリプログラムはきっちりと作って毎日「マッサージ-エクササイズ-歩行訓練」などを行っている。
この訓練、ほとんど毎日の楽器の練習と同じような感覚だ。
毎日きちんと機械的にこなさなければいけない練習と創造的な練習の組み合わせを楽器ではやるけれどもリハビリもまったく同じ。
私が楽器を練習する時最も気をつけているのは、力を抜いてリラックスしながら重力に逆らって楽器の上で指を動かすこと。
地球上で生物が身体を動かすことはすべて「重力に逆らう」行為。
なので、リハビリ練習でもこの「力を抜く」というのはけっこう大事なポイントだ。
恵子の歩き方を見ているとすぐに肩に力が入っているのがわかる。特に右手は麻痺した状態なので真っすぐ下にダランとおろすことが難しい。
結果、右足と左足のバランスが崩れて「きれいな歩き方」にはなっていかない。
まだ退院したばかりなのだからそこまで…という人もいるけれど、何事も基礎の部分でしっかりした動きを覚えないとその動きから抜け出すことは先に行けば行くほど難しくなってくる。
こんなことを楽器でイヤというほど体験しているので、恵子のリハビリもできるだけ正しいやり方で行っていった方が最終的な「結果」に大きな差が出て来ると思って恵子にもそう言ってダメを出している。
どうせ治すならキレイに治そうがこれまでの入院生活の二人の合い言葉だったのだからこれからもその方向はブレないで行きたいと思っている。