みつとみ俊郎のダイアリー

音楽家みつとみ俊郎の日記です。伊豆高原の自宅で、脳出血で半身麻痺の妻の介護をしながら暮らしています。

ヒトは料理をするサルである

2011-05-05 20:11:44 | Weblog
このことばは、『火の賜物』という本に書かれてあることばなのだが、ここ数日騒がれている焼き肉屋で生のユッケを食べて亡くなった方が出たというニュースを聞いて、この本のことを思い出した。
この『火の賜物』という本の主旨はひとことで言うと「人間は料理によって進化した」ということ。
つまり、どういういうことかと言うと、ヒトと類人猿の顔の特徴を比べれば一目瞭然のように私たち人間よりもチンパンジー、オラウータン、ゴリラなどのサル類のアゴはかなり大きい。
歯が大きいのだ。
彼ら類人猿に比べて我ら人間の歯のなんと小さいことか!アゴも何と小さいことか!
ヒトの歯とアゴがアレだけ大きかったら人間に小顔など絶対に存在できない!
この類人猿とヒトの顔の差は、サルは料理をしない、ヒトは料理をする、つまりヒトは火を使うことができたからヒトは進化した、というのがこの本の主旨なのだ。
それでは、食べ物を「生」で食べるのと「調理して」食べるのとどこが根本的に違うかと言えば、消化吸収の時間が調理したものを食べた方が圧倒的に早いということ。ここがポイントだ。
例えば、極端な例で言うと、ヘビは獲物を丸呑みする。そして、自分の消化器官の中で消化されるのを全く身体を動かさずにひたすら待つ。
おそらく食べたものによっては数日も待ち続けなければならないだろう。
消化している間は消化以外のことは何もできない。身体のエネルギーは全て消化に向けなければならないからだ。
もし、これと同じことがヒトの身体で起こったらどうなるだろう?
ヒトがヘビのようにモノを噛まずに飲み込むような身体の構造をしていたらきっとヒトは何も考えられないし労働もできない動物になっていたはずだ。
ヒトは類人猿よりもはるかに小さな歯でもちゃんとモノを消化できるように食べ物を「調理」するという方法を取得して消化以外にエネルギー向け脳を進化させてきたのでは?というのがこの本の著者の仮説だ。
著者は、文化人類学者独特の方法でこの考えの正しさを立証しようとする。
現代に生きる私たち人間を数十人実験台に選び、「生食で生活をするグループ」と「調理したモノを食べて生活するグループ」で数ヶ月実際に生活してもらい2種類のデータを取りその違いから彼の仮説の正しさを立証する。
この結果がとても面白い。
人間は別に「生もの」を食べるだけでも生きて行かれる(別に生肉だけというわけではない。野菜や果物も生で食べるという意味だ)。生ものだけでも必要十分な栄養を取ることができるからだ。
しかしながら、この2種類のグループ(生食生活者と調理食生活者)にはヒトの進化に関係のある、ある重大な違いが生じる。
生モノだけで生活していくとヒトは確実にやせる。
つまり、調理したものを食べないとヒトの消化吸収効率は明らかに悪くなりエネルギーが取りにくくなってくるのだ。
だから、「生食でダイエットをしよう」と唱える人たちも世界中にたくさんいる。
現在もこの考えを信奉している(しかもかなり狂信的に)人は一人や二人ではない。「生食ダイエット」は明らかにヤセルからだ。
しかし、ここで生じる弊害がかなりリスキーな問題を孕んでいる。
というか、これは弊害というレベルのものではないのかもしれない。
これこそ人間の進化に大きく関係することだからだ。

生食で生活を続けると人間の生殖能力は確実に劣化していく、つまり性欲がどんどんなくなっていくのだ。
デトックス的な考え方からすると、調理せずに不純な添加物を一切身体に入れずにひたすら調理をしないモノだけを食べていけば、身体から毒素が抜けていきコレステロール値も下がり低カロリーで生きていかれるようになる。おまけに性欲もなくなるんだったら「ヤセて清く正しい生活ができて何も悪いことなんかないじゃないか」と主張するかもしれない。
しかし、この考え方は、単純に、ヒトを退化させて絶滅危惧種になろうと主張しているようなもの。
このダイエット方法を取る限り脳に食べ物のエネルギーが行かないようになりヒトはどんどん脳が小さくなり頭が悪くなっていくはずだ。
そして、最終的には人類は滅亡の一途を辿るだろう。
そこで、今回のユッケのなま肉の話に戻る。
この地球上には生肉を主体のダイエットで生活している人たちがいる。
北極圏のイヌイットの人たちだ。彼らの主食はアザラシ。
イヌイットの人たちは基本的にアザラシのなま肉や内臓を食べる。
時になま肉が腐るまで放置してウジがたかっているものを食べることもあるという。
それでも、彼らが生肉で死ぬことはない。
でも、日本では、ユッケのなま肉で簡単にヒトが亡くなってしまう。
ナゼなのだろう?と考える。
私は医学の専門家ではないので生半可な知識でこの理由を解き明かすことなどできないが、おそらくは私たちの腸内細菌や消化構造が根本的にイヌイットの人たちとは違うことが原因だろうし、極寒の北極圏で繁殖する細菌と高温多湿の日本で繁殖する細菌では全く違うものが悪さをするに違いない。
それでも、現代の日本の子供たち(今回の生肉ではお子さんたちが多く犠牲になったわけだ)はあまりにも無菌で育てられ過ぎていることも一つの原因なのかナ?とは思ってしまう。
現代人に花粉症などのアレルギーが多いのも、寄生虫がいなくなったせいだと主張する学者さんもいる。
要するに、今の「ヒト」はどんどんヤワになっていき、ウジ虫がたかる食べ物をも消化できるような腸内細菌はもはや存在せず「生食」に耐えられるような身体の機能をあまり残していないのではないのか?
こんなことを、今回の中毒騒ぎと『火の賜物』という本の内容を関連づけて考えてしまったわけだ。



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