「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

2006・08・17

2006-08-17 08:30:00 | Weblog
 今日の「お気に入り」は、萩原朔太郎(1886-1942)の詩集「氷島」より「我れの持たざるものは一切なり」と題した詩一篇。

 我れの持たざるものは一切なり

   我れの持たざるものは一切なり
   いかんぞ窮乏を忍ばざらんや。
   独り橋を渡るも
   灼きつく如く迫り
   心みな非力の怒に狂はんとす。
   ああ我れの持たざるものは一切なり
   いかんぞ乞食の如く羞爾(しゅうじ)として
   道路に落ちたるを乞ふべけんや。
   捨てよ! 捨てよ!
   汝の獲たるケチくさき名誉と希望と、
   汝の獲たる汗くさき銭を握つて
   勢ひ猛に走り行く自動車の後
   枯れたる街樹の幹に叩きつけよ。
   ああすべて卑穢なるもの
   汝の非力なる人生を抹殺せよ。



   (角川春樹事務所刊「萩原朔太郎詩集」ハルキ文庫 所収)
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