「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

2006・08・19

2006-08-19 08:00:00 | Weblog
 今日の「お気に入り」は、萩原朔太郎(1886-1942)の詩集「月に吠える」から「地面の底の病気の顔」と題した詩一篇。

  地面の底の病気の顔
 
   地面の底に顔があらはれ、
   さみしい病人の顔があらはれ。

   地面の底のくらやみに、
   うらうら草の茎が萠えそめ、
   鼠の巣が萠えそめ、
   巣にこんがらかつてゐる、
   かずしれぬ髪の毛がふるえ出し、
   冬至のころの、
   さびしい病気の地面から、
   ほそい青竹の根が生えそめ、
   生えそめ、
   それがじつにあはれふかくみえ、
   けぶれるごとくに視え、
   じつに、じつに、あはれふかげに視え。

   地面の底のくらやみに、
   さみしい病人の顔があらはれ。

   (河上徹太郎編 「萩原朔太郎詩集」 新潮文庫 所収)
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