今日の「お気に入り」。
「 おばあちゃんは百十歳まで生きた。先祖のキャラム・ルーアと同じ歳だ。おじいちゃんが亡くなったあと、
おばあちゃんはおじいちゃんの衣類を、生前と同じ場所にそのまま残しておいた。上着や帽子は長いあいだポーチの
釘にかかったままだったので、家に入っていくと懐かしいおじいちゃんの匂いがした。それは独特のタバコの匂い、
こぼしたビールの匂い、ユーモアや陽気な優しさの匂いだった。茶色い犬たちは何ヶ月もその衣類の下に寝そべり、
交差させた前足に鼻面をのせていた。情が深く、一生懸命がんばる犬たちだった。」
( アリステア・マクラウド著 中野恵津子訳 「彼方なる歌に耳を澄ませよ」 新潮社刊 所収 )