「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

仮説の靴 Long Good-bye 2024・07・26

2024-07-26 05:59:00 | Weblog

 

  今日の「 お気に入り 」

  最近読んだ 村上春樹さん ( 1949 -   ) の随筆「 村上

 朝日堂はいかにして鍛えられたか 」( 新潮文庫 )

 の中に 「 砂浜の中のキー 」というタイトルの小文

 がある 。

  その冒頭に こんな一節がある 。

 「 中原中也の詩に『 月夜の晩に 、ボタンが一つ
  /波打ち際に 、落ちてゐた 』というのがある 。
  『 それを拾つて 、役立てようと/僕は思つた
  わけでもないが 』と続く 。まあそれほどかっ
  こよくはないけれど 、僕は以前 、藤沢鵠沼の
  海岸で 、砂の中に自動車のキーをみつけたこと
  がある 。
   九月のある日曜日の夕方にひとりで海岸沿いを
  散歩して 、ぼんやり砂浜に座って夕日を眺めて
  いたら 、手に触れる何か固いものがあるので 、
  ふと見たらそれはなんと前世紀のホノルルでカ
  メハメハ大王が愛用していたというあの伝説の
  プラチナ製の靴べら ・・・ じゃなくて『 スバ
  ル 』のマークのついたごく当たり前のキーホル
  ダーだった 。おそらく誰かのズボンのポケット
  からぽろっとこぼれ落ちて 、見つけられないま
  ま 、そこにずっと落ちていたのだろう 。
   せっかくの週末にどこか遠くからわざわざ海に
  遊びに来て 、そのあげく車のキーをなくしてし
  まうなんて 、考えてみたら気の毒な話である 。」

 ( ´_ゝ`) 

   小説家は 、このエピソードを種に 、もし自分がその

 の立場だったらという『 仮説の靴 』をはいて 、像の

 限りを尽くして 話を膨らませてゆく 。

  「 仮説の靴 」を けっこう沢山自分のうちの下駄箱に

 しまい込んでいることが 、作家になる必須アイテムら

 しい 。

  この小文の最後は 、次のような一節で締めくくられて

 いる 。

 「〈 そういうことは起こるものなのだ 〉と僕は
  ふとそのときに思った 。かたちのあるものは 、
  どれだけ努力したところで 、いつかどこかに
  ふっと消えてなくなってしまうものなのだと 。
  それが人間であれ 、ものであれ 。」

  小噺の落ち 。

 ( ´_ゝ`)

  「 ショート・ショート 」は 、概してもの足りない

 思いがして不満が残ることが多いんで 、避けてきた

 のだが 、村上春樹さんの「 村上朝日堂 超短篇小説

 『 夜のくもざる 』( 新潮文庫 )」を読み 、印象

 が変った 。その中の「 牛乳 」なんて一篇は結構好

 きかも 。

 

 

コメント
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