「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

潟(かた)のみち Long Good-bye 2024・11・04

2024-11-04 06:06:00 | Weblog

 

  今日の「お気に入り」は 、司馬遼太郎さん の

 「 街道をゆく 9 」の「 潟のみち 」。

  今から50年ほど前の1976年の「週刊朝日」に

 連載されたもの 。述べられている風景は 、こんにち

 でも余りかわっていないのではないか 。知らんけど 。 

  備忘のため 、数節を抜粋して書き写す 。

  引用はじめ 。

 「 幾度ものべたように 、新潟市の南につらなる
  田郷は 、まことに一望鏡のように平坦である 。
  『 潟のみち
   と自分で勝手に名づけてこの変哲もない田園を
  歩いているのだが 、こんにち 、ただ一つの例外
  を除いて潟は残っていない

   鳥屋野潟(とやのがた)だけが 、残っている
   この潟を地図でみるとカタチは琵琶湖に似てい
  る 。むろん湖などというほど大きいものでなく 、
  潟のまわりは一〇キロほどでしかない 。」

 「 亀田郷はことごとく干上がって陸地になったが 、
  鳥屋野潟のみは可憐にも古代以来の潟と湛水地と
  いう地形をまもって水をたたえているのである 。
   明治時代の地理書をみると 、
  『 鳥屋野潟は 、古い時代の湾の名残りにちがい
  ない 』
   という意味のことが書かれている 。」

 「 この潟のまわりの鳥屋野という旧村は亀田郷の
  どの土地よりも低く 、亀田郷のあらゆる土地か
  ら水が流れてくるようになっている 。地図を見
  ると 、海面の高さにくらべてマイナス一メート
  ルである
 
  『 諸村の悪水流入す
   と 、前記明治の地理書にある 。諸村にとって
  自分たちの土地に降った雨などが 、大小さまざ
  まな水路をつたって鳥屋野村へ流れこむ 。ふつ
  うなら村が『 悪水 』で沈没するところだが 、
  悪水を受けとめる鳥屋野潟があるために救われ
  ている 。まことにこの意味では近世以来 、亀
  田郷のひとびとにとっては大恩ある沼といって
  よく 、水天宮でも祀って子々孫々まで感謝して
  もおかしくはない 。 」

 「 鳥屋野潟の堤の上にのぼると 、堤の上には桜
  が植えられていて 、並木をなしていた 。おそ
  らく公園にするという計画があったのであろう 。
   ところが並木道のそばは 、長く列をなしてラ
  ブ・ホテルが押しならび 、その装飾過剰な建物
  のむれが 、景観を特殊なものにしている 。ま
  わりは 、稲作の田園である 。ちょっと異様な
  景色といっていい 。 」

 「 ともかくも土地に関する私権が無制限にちかい
  社会だから致しかたないが 、はるばるとこの潟
  をめざしてきただけに 、気が滅入った 。」

 「 鳥屋野潟は 、大いなる水溜まりとして 、いま
  もこの土地の乾湿に大きな役割を果たしている
   この潟の東端に栗ノ木川という小さな川が不要
  の水をはこんできてこの潟に流しこみ 、同時に
  その東端でポンプによる揚水がなされ 、水は水
  路をつたって信濃川河口に流れこむ 。
   それだけでなく 、潟の西端が大きく切りとられ 、
  直線一・五キロほどの立派な排水路によって 、
  信濃川の『 親松 』という地点に流しこまれ 、
  盛大に排水されている 。
   鳥屋野潟から 、親松まで行ってみた 。
  『 親松排水機場
   という三階建のビルがあり 、ここに巨大なポ
  ンプがいくつも据わっていて 、これが日夜稼働
  して亀田郷の水( 具体的には鳥屋野潟に集めら
  れた水 )を信濃川へ吐き出して海へ送っている
  ということによってのみ 、亀田郷は乾いた陸と
  して存在しているのである 。
  『 亀田郷は親松のポンプで保(も)っているので
  す 』
   と 、佐野藤三郎氏がいったことばが 、この屋
  内に入るとよくわかった 。
   このポンプ場は 、農林省がつくった
   維持管理費は年に九千万円で 、その分担の内
  訳は国が4 、県が4 、亀田郷が2だという 。」

 「 このポンプを見あげていると 、われわれの社
  会はじつによくやっているという気持が湧いて
  くるが 、しかし土地についてのわれわれの思想
  の中に公の習慣がほとんどないためになにかこの
  現状での折角の努力も 、かつての亀田郷のひと
  びとの労苦も 、結果としては珍妙なものになっ
  ているのではないかと思えたりした 。」

  引用おわり 。

 (⌒∇⌒) 。。🐸 。。

  グーグル・マップのストリートビュー―で『 鳥屋野潟(とやのがた)

 の周囲の みち や 信濃川河畔にある『 親松排水機場の外観をみる

 ことが出来た 。

  書かれた文章の五十年後の風景をみられるなんて ・・・ 🐸 。。

 

 

 

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