「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

2007・12・04

2007-12-04 08:45:00 | Weblog
今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)の著書「完本 文語文」から。

 「私は新入社員に手紙の書き方をカードにして与えたことがある。会社の商用の手紙、同返事はB6判のカードにすれば二十枚で尽きる。社員がそれに従って書いて半年もすれば、退屈して字句の二、三に工夫を加えるようになる。才能があるものである。才能がないものは紋切型で終る。紋切型はつまらないが晦渋難解なことはない」

 「せっかく手本があるのに、一日かかって書き悩んでいる新入社員がある。手本通りに書きたくない、屈辱だという。各人に個性がある、模倣するなと教わって育ったものの優等生である。モデルに従って自家薬籠中のものにして、それからぬけ出てはじめて個性(に近いもの)だと言っても優等生だから耳を傾けない。彼も犠牲者であろうが私も犠牲者である。早晩この教育はくつがえるだろう。」

 「十読は一写に如(し)かない。」

   (山本夏彦著「完本 文語文」文藝春秋社刊 所収)
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2007・12・03

2007-12-03 09:00:00 | Weblog
今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)の著書「完本 文語文」から。

 「大正デモクラシーは、今と同じく模倣をしりぞけて独創を重んじた。それまでは書画は臨模(りんも)といって手本の模写からはじめた。まねが出来れば一人前といった。大正時代は図画は自由画に、作文は綴方と称して、見たまま思ったままを書けと教えられた。手本に従うことは悪いことになった。
 各人にオリジナリテがあるという考え方と、ないという考え方があって、私はないと思っている。もしあるとすればまねしているうちに自然にあらわれるものだと思っている。個性なんてちやほやされて出てくるものではない。」

   (山本夏彦著「完本 文語文」文藝春秋社刊 所収)
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2007・12・02

2007-12-02 08:40:00 | Weblog
今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)の著書「完本 文語文」から。

 「文章には内容と表現があって、中身はあり余っているのだが表現が伴わなくてと弁解するものがあるが、なにそう思いたいだけで、中身はないのである。
 それは画家にとって画面がすべてであることに似ている。画面以外に山ほど内容があると画家は言わない。
 人は幼い時から言葉を操って用を弁じている。言葉をおぼえるには時期がある。自然におぼえられると思うのは誤りである。狼の子に育てられたというカマラは推定八歳のとき人間界にもどったが、十七で死ぬまでついに言葉をおぼえないで終った。
 言葉は幼いうちは親から口うつしに学ぶ。これは実は一大事なのである。核家族になって親兄弟から、また原っぱや路地で仲間から学ぶことは稀になった。」

 「教育というものは前代の遺産を後代に伝えるもので、だから元来保守的なもので、洋の東西を問わず昔は古典を読むことだった。それなら読むべき本はそんなにない。左国史漢、四書五経である。ギリシャローマである。極端に言えば十冊か二十冊である。
 今は本が出すぎる。新しい本は古い本を読むのを邪魔するために出るという。十七世紀の昔は本はまだそんなに出ていなかったから、必読の書は少なかった。心がけてその全部を読むことは可能だったから、デカルトは読んで何一つ加えることがないのを発見したという言葉を残した。孔子さまも『述べて作らず、学ぶに如(し)かざる也』とおっしゃった。
 何度も言うが、二千年も前に人間の知恵は出尽しているのである。ただ同じことでも同時代人の口からアクチュアリテを例にとって説かれるのはまた格別である。新しい発見を耳にするような気がする。だから新刊は出てもいいのである。ただ多すぎる。」

   (山本夏彦著「完本 文語文」文藝春秋社刊 所収)
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2007・12・01

2007-12-01 08:45:00 | Weblog
今日の「お気に入り」は、高浜虚子(1874-1959)の句をいくつか。

 「争ひに我口吃(ども)る寒さかな」

 「せはしげに叩く木魚や雪の寺」

 「新しき帽子かけたり黴(かび)の宿」

 「うつくしき蒲団わびしき病かな」
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