高知発 NPO法人 土といのち

1977年7月に高知県でうまれた「高知土と生命(いのち)を守る会」を母体にした、47年の歴史をもつ共同購入の会です。

生酢(きず)のたしなみ

2014-07-06 09:00:00 | 土といのちからのお知らせ
理事長 丸井一郎です。

食の多様性(高知編2) ★ 生酢(きず)のたしなみ ★

 高知は全国でも有数の柑橘王国です。それは、なによりタチバナ(橘、「トキジクノカグノコノミ」とも推定される)の野生種の群落が土佐市甲原地区の松尾山にあり、国指定文化財(天然記念物)とされていることからも明白です。

 土佐文旦、ポンカン、温州ミカン、甘夏、八朔、ネーブル、黄金柑、小夏などなど生食用の甘味果実だけでなく、料理用の生酢となる酢ミカン類(香酸柑橘と呼ばれる)が大いに活用されます。その代表はユズ(柚子)です。各種刺身、カツオのたたき、ちりめんじゃこ、姿寿司、焼き物、各種酢の物などなどに生のまま絞るか、瓶詰めの果汁などをぶっかけます。そのほか生酢になるミカン類は多種にのぼります。

写真は「JAとさし」のWEBより
http://www.jatosashi.or.jp/genki/hyakkei.php?id=16

 面白いことに、単なる統計からはこの実情がわかりません。家計単位でみると、(工業)生産品の醸造酢の購入額では、高知県は全国的に見てやや下位に位置します。では、酢は使わないのでしょうか。高知に住んでいる人は「んん?」と思うでしょう。なにせ「あいつはちっくと酢がきいちょらん」とは言動がきりっとしないということであって、酢が利いていることがこの上なく期待されているわけです。答えは、醸造酢(姿鮨などに不可欠)だけではなく、むしろ生酢をきわめて多用するということです。ユズの生産量は全国の半分を占めます。

 ユズのほか、夏ミカン(甘夏ではない)、ブシュカン(仏手柑ではない)、直七(なおしち)、花ユズ、ダイダイ、スダチなどなどが生酢として利用されます。メビウスの輪のように年を越え、一年を通じて、生酢の季節が巡ります。

 昨年来すっかりユズ(「柚の酢」)のお世話になった春の後、梅雨前あたりから(最近ではまれですが)夏ミカンが酢じめの魚(アジ、サバ、シイラなど)の入った散らし寿司に香りを添え、梅雨が明けてよさこい祭りの囃子(時に轟音)が聞こえると、新前や新子と呼ばれるマグロの稚魚(近年は減少気味)の刺身に絞るブシュカンが現れる。ブシュカン酢はリュウキュウ(ハスイモの葉柄)やキュウリ、ナス(新鮮なら叩くだけ、または湯通しして)などの酢の物(魚の酢じめやイカや貝など入り)にもこじゃんと合います。

 夏が過ぎようとする頃、青ユズが現れ、終わりかけのブシュカン共々朝どれのシイラ、ウルメイワシの刺身やメジカ(宗田カツオ)の(生ものは得難いので)茹でたものに絞る。さても時を置かずに直七や花ユズが現れ、鮎や焼きシイタケにぎゅっと、と思うともうユズの季節で、ユズの絞り汁が瓶入りであちこちから届くと今年も暮れに向かい始める、ひとつユズの皮の醤油煮でも、などなどと巡ります。ややまれですが、冬場の鍋物(クエよどこへ行った)、焼き物などにユズのほかスダチやダイダイも利用されます。近年では無農薬(というか自然放置栽培)の地物のレモンも仲間に入りました。小粒で不揃いの地ガキ(もちろん天然物)に良く合います(辛口の白ワインもいいが土佐市の出間の亀泉もいける)。 

 一年を通じて絞るミカンには不自由しない、またそれをかける食材(とくに地鶏や鮮魚と野菜)が潤沢にあるのが高知の特色です。筆者は育ちが転勤族で、奴豆腐に生酢というのには、やや抵抗がありましたが(酸い豆腐=古い)、高知の石豆腐(木綿豆腐より固い)のおかげで納得できました。生酢なしの土佐料理はありえない、と言えます。  
               
コメント
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