会社の子に川上哲治さんのことを話そうとして、ウェブのニュースを開いたとき、小林彰太郎さんの訃報が目に入った。
CAR GRAPHICの編集長として、ファンの間では伝説的と言って良いほどの名声を得た方だ。編集長を辞されてから既に四半世紀に近くなるが、その名声は衰えなかった。
自動車や、僕の知っている範囲では鉄道模型の山崎喜陽さんとか、オーディオの菅野沖彦さんなどがそうだが、おそらく昔は中流以上の、学歴の高い人でないと趣味活動などできなかったのだろう。外国語に堪能で、文学その他非常に広い教養を持つ方々が、趣味界のオピニオン・リーダーとなることが、昔は多かったようだ。
今だとオタクなどと呼ばれて、とても狭い世界観を持つ人が趣味人とされているが、小林さんの文章ににじみ出てくる深い教養とちょっと日本離れした、格調高い文体は、自動車趣味をとても洒落た、紳士の嗜みのようなもののように思わせた。こんな大人になってみたいなあ、とあこがれたものである。
先日車で久しぶりに遠出する機会があり、ちょっと興味が出たのでCAR GRAPHICを10数年ぶりに買ったり、本屋で小林氏の本を立ち読みしたりしていたところだった。不思議な、因縁めいたものを感じる。
小林氏の近著をぱらぱらと立ち読みしたが、近頃若者の車離れが顕著だと聞くが、良いことだ、都市の交通は見直して、路面電車のようなものにすべきかも知れない、などとあり、意外な感じがした。今日、あらためてその本を探そうとして、同じ本屋に行ったが、書棚になかった。訃報を聞いたファンが、買っていったのかも知れない。
ご冥福をお祈りします。
20年ほど前に買った本。「小林彰太郎の世界」表紙は、軽井沢を走る小林氏の写真。同じ写真をあしらったCGの記事を覚えている。「英語にはBusman's holidayというのがある、ぼくも平日はテストドライブをして車の記事を書き、休日には古い車を直して走る、この気持ちの良さはどうだ」という内容のことを書いておられた。