再び本の話、また少し重い内容の話が続くが・。
日本海軍400時間の証言は、NHKが5年前に特集した、海軍反省会に関するドキュメンタリーの制作者の取材記録である。
海軍反省会というのは、旧日本海軍や軍令部の将官達が集まった秘密の会議のことだ。10年以上にわたり、当時戦争を指導したエリート達が自分たちを振り返り議論するという場であったらしい。元々非公開を前提に、テープに録音されていたものが、関係者の決断により広く世に公開されることになった。テレビの特集は3回にわたり放送された。
僕はこの種の番組は良くチェックしてみているのだが、うかつにもこの特集だけは見ていない。アーカイブがPCでも見られるらしいので、折を見て見てみたいと思う。また、証言録そのものは戸田一成氏の編集によりシリーズで刊行されている。
で、この本はNHKスペシャルの取材班の記録なのだが、最初にプロローグとして、記者がなぜこの番組を作るに至ったか、だれそれと会って、誰に話を聞いて、というエピソードが紹介されている。いよいよ本編、と思って読み進むと、また誰と会って、どこで取材して・・と、冒頭のようなエピソードが延々続いている・・。なんだ、証言記録の話そのものじゃないのか・・。証言は一部が引用されているが、あくまでも番組を作るため取材した過程の記録なのだ。もちろん、番組のテーマに関する内容が中心だし、証言記録の引用も出てくるが、本書がメインに扱っているのは海軍反省会や番組そのものではなく、取材過程なのだ。
なんだか肩すかしを食った気分になったが、気を取り直して読み進んでいくと、これはこれでなかなか面白い。取材進めていくと意外とこんな事がわかった、とか、改めて番組の最も訴えたいことをどこに据えたら良いか、考え直した、というような話の進め方になっている。
テレビのシリーズでは開戦決意、特攻、そして戦後の東京裁判弁護といったテーマに分けられており、本書ではそれをトレースして、反省会の証言と、発言者または発言者の親族の方への取材の過程が綴 られている。それぞれに記者なりの視点、たとえば開戦への過程については、軍令部の法的、組織的位置づけへの追求であるとか、特攻の発案、推進者の追求 (断定はしていないが、黒島亀人参謀の関与を示唆している)、海軍への戦争犯罪訴追に対する取り組み、などが示されているが、先に紹介した「失敗の本質」 のような、アナリシスとして結論づけるような書かれ方はしていない。
最後の方に書いてあったが、雑誌が終戦特集を組むと「売れる」のだそうだ。組織が犯す戦略の失敗や、人間関係、意思決定の過程などが、組織に生きるサラリーマンに、自分たちの会社のことを思い起こさせるらしい。僕もそういうことが大好きなたちだ。エリート集団が誤った決断を下してしまう、周辺もそれに気がつかないか、おかしいと思っても止められなくなるという過程は実に興味深い。
仲が良すぎて、失敗してもお互いをかばい合うとか、万策尽きてタブーをおかすとか、過去を直視できずつい体裁のよい発言をしたり、正面から見ようとしなかったりということは、今の自分たちもよく経験することだ。前回も書いたが、やはりここでも、歴史は繰り返し人は同じ過ちを犯す、という事実が改めて思い出される。