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「うつせみの世は常なしと知るものを秋風寒く偲ひつるかも
(月移カワりて後、秋風を悲嘆カナシみて家持がよめる歌一首 #3.0465)」
「家持も先立ち逝かん妻がいる親父と同じ境遇なるか()」
「夢うつつ世は無常だと知りながら秋風が刺し寒き思いを()」
「我が屋戸に 花ぞ咲きたる そを見れど 心もゆかず 愛ハしきやし
妹がありせば 御鴨ミカモなす 二人並び居 手折りても 見せましものを
うつせみの 借れる身なれば 露霜の 消ぬるがごとく 足引の 山道をさして
入日なす 隠りにしかば そこ思モふに 胸こそ痛め 言ひもかね
名づけも知らに 跡も無き 世間ヨノナカなれば 為セむすべもなし
(又家持がよめる歌一首、また短歌 #3.0466)」
「時はしもいつもあらむを心痛くい去ユく我妹ワギモか若き子置きて
(反し歌 #3.0467)」
「こんなとき死に逝き吾を悲します若子ミドリコおいて妻はいきたり()」
「出で行かす道知らませば予め妹を留めむ塞セキも置かましを(#3.0468)」
「死に逝くに道を知れればあらかじめ妻を止めたる塞セキを置くのに()」
「妹が見し屋戸に花咲く時は経ぬ吾が泣く涙いまだ干なくに(#3.0469)」
「妻が見た家に花咲き時は経つ私の涙渇れぬと言うに()」