この時期によく見かけるヤブツバキの花。
ヤブツバキは、日当たりの悪い日陰の場所でも生きることができる樹木です。
ご存知のとおり、樹木は光を求めて、枝葉を大きく広げ、光を取り合いますが、ヤブツバキは、大きな樹木の下という日陰の環境で生きる能力を身につけた樹木です。
ヤブツバキのように、日陰の環境でも成長できる樹木を「陰樹」といい、日陰に対する抵抗力のことを「耐陰性」といいます。
ヤブツバキは、高木層(15m~25m)と低木層(2~5m)が利用しない空間である亜高木層(5~15m)という空間で生きる樹木で、高木層から漏れた弱い光を利用して、光合成を行います。
弱い光を利用しているので、当然、生産量は少ない・・・。
しかし、呼吸などの消費量を抑えることで、生きるために必要な栄養分を貯める節約上手な生き方をしています。
光の弱い環境(暗い環境)に住むメリットとして、
①適度な湿度が確保される(乾燥しない)
②風当たりが弱い(強い風に吹かれない)
③競争相手が少ないため、生存競争に負けるリスクが低い
ということが挙げられます。
光の取り合いによる激しい競争に生き残るためには、枝葉を大きく広げ、ほかの木よりも先に空間を支配する必要があります。
ただし、広げた枝葉を支えるためには、強い幹と根を持ち、自分自身が倒れないようにしないといけません。
住みやすい環境で生育していくためには、他の樹木との生存競争に勝ちつつ、自分自身を支える力を身につけないと生き残れない
ヤブツバキは、そんなリスクを背負うくらいなら、あえて環境の悪いところで、地道に生きる道を選んだ・・・と思います。
そんなヤブツバキ。
実は、生きるためにもう1つの工夫がなされています。
それは「葉」。
ヤブツバキの葉は厚くて、ツヤツヤに光っています。
このツヤツヤは、ロウ物質でできた「クチクラ層」という透明の膜で、葉の水分が蒸発しないように守っています。
ヤブツバキの葉は厚くて、クチクラ層が発達しているので、乾燥から身を守ることができます。
おそらく、大きな木が倒れたとき、突然、亜高木層という日陰の環境が明るくなって、乾燥したときに備えているのだと思います。
まだまだあるヤブツバキのもう1つの生存戦略。
それは「冬に花を咲かせる」こと。
しかも、冬は虫が少ないので、虫に運んでもらうこともできません。
では、なぜ冬に花を咲かせるのか・・・。
冬という餌の少ない時期に花を咲かせることで、鳥にとってありがたい食料となります。
ヤブツバキは、冬という競争相手が少ない時期に花を咲かせ、鳥に花粉を運んでもらい、ゆっくりと子孫を残すというわけです。
ヤブツバキは、生存競争という争いごとを好まない、やさしい樹木なのかもしれません。
■ヤブツバキの用途
ヤブツバキの樹皮は、白っぽく滑らかで美しいため、床柱として重宝されています(いました?)。
また、材質も固く緻密なので、器具材や木工芸品などに使われます。
建築材にも使われていそうですが、その昔、ツバキの大木が伐採されたため、今では建築材として使える大木はありません
さらに木炭としても品質が高く、そして、種子から椿油が取れるなど非常に用途性の高い樹木です。
■ツバキの花にまつわるお話■
ツバキの花は、萼を残して、花弁ごとボトッと落ちるので、その姿を「首が落ちる」と見立てられました。
「お見舞いには縁起の悪い花だ」と言われ、昔の侍にも、縁起が悪いと嫌われたそうです
さらに、競馬界でも「落馬」を連想することから競争馬の名前には使われないなど、マイナスのイメージもあるようです
■ツバキとサザンカの違い■
ツバキによく似たサザンカ。
その違いは・・・
ヤブツバキの花は花弁ごと花が落ちますが、サザンカは花弁がバラバラになって落ちます。(左:ヤブツバキ 右:サザンカ)