和歌山県の特産品「紀州備長炭」。
その原木である「ウバメガシ」。
今回は、ウバメガシ林に関するお話です(炭焼きさんに山を案内していただいたので)。
江戸時代の頃、製炭が盛んになり、ウバメガシ林を伐採しすぎて、原木不足に陥ったそうです。
そこで、原木を安定的に供給できるように考えられた施業が「択伐施業」です。
スギやヒノキの伐採(主伐)で言われている択伐とは異なります。
ウバメガシ林の択伐施業は、広葉樹の特性を生かした非常に理にかなった施業です。
簡単に言うと、ウバメガシを萌芽させるのですが、一般的な萌芽更新とは異なります。
それは、株から出ているウバメガシを全て切るのではなく、あえて何本か残します。
木を残すことで、萌芽に必要な養分を株に供給できるため、株からの萌芽を促したり、根から芽が出る「根萌芽」を促すことにつながります。
例えば、切株に6本のウバメガシが出ていたら、その中から細いものを1~3本残すというものです。
実際、残す本数は、ウバメガシ林の密度や成長によって異なり、弱度択伐、中庸択伐、強度択伐という風に使い分けているそうです。
再生するまでの期間としては、伐採から20~30年くらい。
僕が知っている択伐施業の現場には、伐採して10年未満で見事なウバメガシ林に戻っているものもあります。
←真ん中から出ているウバメガシの幹は、以前に残された萌芽幹。
また、伐倒木を林外から全て出すのではなく、株に積み上げることで、株の乾燥を防ぐという工夫もされています(上の写真の右上を参照)。
あと、不要なシイやウルシなども伐採します。
そして、肥料木となるヤマモモを残すことも重要です。
ただ、ヤマモモも放置すると、ウバメガシよりも大きくなって、被圧してしまうので、同じ時期に伐って、ヤマモモも萌芽させます。
逆に、すべてのウバメガシを伐採、つまり皆伐をすると、株の再生力は衰え、アカメガシワやカラスザンショウなどが先に成長してしまうため、ウバメガシ以外の林になってしまいます。
択伐施業したウバメガシ林では、カラスザンショウなどが生えてきても、自ずと消えていくそうです。
おそらく、残されたウバメガシによって、被圧され、うまく成長できないのではないかと考えられます。
この択伐施業が伝わっているのは、和歌山県だけだそうです。
現在、スギやヒノキの木材価格は、高くありません。
伐採し、木材を売っても、手元に残ったお金では、再びスギやヒノキを植えることが困難な状況にあります。
そのような状況なので、個人的に1つ考えていることがあります。
それは、スギやヒノキを伐採した後、ウバメガシを植えて、ウバメガシ林を作る。
そして、そのウバメガシ林を択伐施業を実践している炭焼きさんに売る。
山主にしてみると、ウバメガシ林は再造林が不要なので、植栽コストがかかりません。
また、下刈りなども基本的に不要なので、育林コストもかかりません。
つまり、炭焼きさんが択伐施業をするだけで、ウバメガシ林が繰り返し再生するため、山主がウバメガシ林にかける費用はほぼ0(最初の植栽費用だけ・・・かな。)。
そして、20年後、売ることが出来ます。
択伐林施業を実践している炭焼きさんが、1年に必要なウバメガシ林は1.0ha~1.5haくらいだそうです。
つまり、ウバメガシ林が20haあると、1人の炭焼きさん一生分ということになります。
仮に、ウバメガシ林1haが100万円で販売されているとすると、山主さんは何もせず、毎年、100万の収入が得られるということです(実際の取引価格は知りません。便宜上、100万円にしているだけです。)。
ウバメガシ林が40haあると、炭焼きさん2人分、200万円。
ウバメガシ林が60haあると、炭焼きさん3人分、300万円。
あくまで、机上の話ですが、不可能なことではないと思っています。
しかも、ウバメガシの適地は、スギやヒノキにとって不適地です。
痩せ地にウバメガシ、肥沃なところにスギやヒノキという風に、棲み分けも可能で、ウバメガシかヒノキか・・・って、悩む必要もありません。
スギやヒノキは、植栽してから伐採するまで、最低でも40~50年かかります。
しかも、伐採後は、必ず植栽や下刈りなどの施業が必要です。
金額的な動きで言うと、スギやヒノキの方が大きく、ウバメガシの方が小さいと思います。
しかし、ウバメガシで得た収入を、スギやヒノキの育林費用に充てたり、作業道を直したり、別のものに投資することで、複合的な林業経営が可能になると思います。
植栽(造林、再造林)とは「投資」です。
林業経営にとて、山に木を植える行為は「投資」です。
「投資」した苗木が、利益を産む。
スギやヒノキに限定した「投資」ではなく、ウバメガシなど需要のある樹種を選択肢に加えるという考えもアリではないでしょうか。
これからは、植栽コスト・育林コスト・伐採コストを下げることと作業道などインフラ整備を進めることが重要になります。
そのためには、再生力の強い広葉樹を生かして、自己負担が限りなく0に近い方法で、その広葉樹を収入源にすることが1つのポイントだと考えています。
和歌山県の場合は「ウバメガシ」。
ウバメガシの需要、備長炭の流通は、すでに確立されているので、あとは山をつくる。
山をつくるには、時間がかかります。
少しでも早く山をつくれば、その分、複合的な林業経営も実現できると考えています。
ウバメガシを取り入れた複合的な林業経営。
いけると思うんやけどな~
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