会議中、隣の大部屋からホイッスルの音が聞こえた。
ストの始まりを告げるホイッスルらしい。
労働組合の人間が現れホイッスルを吹き言うのだ。
「はい、そこ手を止めて」
かつて夕方までの予定だったストが長引き、
夜までもつれ込んだことがあるという。
その日は野球中継があったが、
スト中に現場の人間は働くことができない。
だが当時は野球中継といえば花形番組。
まさか放送しないわけにはいかない。
この危機を乗り切るためにとられた方法は。
ストには関係ない管理職の人間たちが、
ひさびさに現場に出て中継を仕切ったのだ。
中には数年ぶりに現場に立つ人間もおり、
新しい機材に戸惑っている者もいたというが、
しかしみんな楽しげに働いていたという。
おかげで中継は無事放送。
しかも近年稀に見る「いい中継」だったらしい。
現場のピンチのために引退したベテランたちがひと肌脱ぎ、
それを乗り切る。
まるで景山民夫の小説に出てきそうなエピソードだ。
まあ、そのピンチが「スト」というのが少々緊張感には欠けるけれど。